【血小板減少】健診で血小板が少ないと言われたら? 血液専門医がわかりやすく解説

血小板は血管が破れて出血した時に血を止めてくれるはたらきがあります。血小板が少なくなると出血しやすくなったり、血が止まりにくくなります。血小板<2万/μLは頭蓋内出血のリスクがあるので早急な診断と治療が必要です。血小板減少の原因を調べるには問診、既往歴、内服薬の確認、血液検査が必要で、場合によっては骨髄検査も行います。

この前、血液検査で血小板が少ないといわれました。
特に困っていることはないんだけどなぁ

血小板が少なくなる原因は様々です。
症状がないからといって、放っておかないほうが良いですよ。

健診や他の病気の検査で偶然、血小板減少を指摘されることがあります。血小板減少の原因となる病気は多岐にわたり、治療が必要になることもあります。

今回は血液内科医であるつかポンが、血小板減少についてわかりやすく解説します。この記事を読めば、血小板減少の症状や原因、対処法がわかる思います。

この記事のまとめ
  • 血小板は血管が破れて出血した時に血を止めてくれる、絆創膏の働きがあります。
  • 血小板が少なくなると出血しやすくなったり血が止まりにくくなります
  • 血小板<2.0 万 /μLは重篤な出血のリスクがあるので、早急な診断と治療が必要です。
  • 血小板減少の原因を調べるには問診、既往歴、内服薬の確認、血液検査が必要で、場合によっては骨髄検査を行います。
目次

1. 血小板とは

血小板は、何らかの原因で血管が破れ出血したときに、傷口に集まることで傷口をふさいで血を止めてくれます。すると、その血小板から仲間を呼ぶ物質が放出され、まわりの血小板がどんどん集まります。その結果、絆創膏の役割となるかさぶた(血栓)が作られます。この働きを一次止血といいます。
さらにしっかりと止血するためには、血漿中の凝固因子(ぎょうこいんし)が主役となる二次止血が行われます。

2. 血小板減少の定義

血小板数(/μL)
基準値15〜40万
軽症10〜15万
中等症5〜10万
重症<5万

血小板が少ない状態を血小板減少といい、血小板数が15 万 /μl 以下を指します。

検査の基準値とは?

健診や人間ドックで使われる基準値とは、20〜60歳の健康な人の検査データの上限と下限の2.5%ずつを除外した数値です。つまり、「現時点では健康と考えられる人の95%が含まれる範囲」が基準値ということです。
ということは、健康な人でも基準値に入らないことがあるのです。

3. 血小板減少の症状

血小板は、血を固める絆創膏の役割のある細胞です。
血小板が少なくなると出血しやすくなったり血が止まりにくくなります。皮膚に青あざができやすくなるというのがよく見られる出血症状です。女性では、月経の量が多くなる月経過多)という症状も見られます。

高度の血小板減少(2.0 万/μL以下)になると、歯肉や鼻などの粘膜出血スネに点状の紫斑を認めます。
ときに、下血や吐血などの消化管出血や脳出血などを起こすこともあります。

このように、血小板減少の程度によって、出血症状が変わります。
診察時に粘膜の出血や点状紫斑があれば、血小板<2.0万 /μLの可能性があるため、早急な原因検索と治療が必要になります。

血小板数と出血症状の関係
  • 血小板数 < 10万/μL … 軽い打撲で紫斑
<10万/μL … 軽度の打撲で紫斑ができます。
  • 血小板数 < 5.0万/μL … 身に覚えのない紫斑
  • 血小板数 < 2.0万/μL … 口や鼻、消化管、頭蓋内などの粘膜出血
引用元:Indian Journal of Dermatology
  • 血小板数 < 1.0万/μL … 皮膚(特に足のすね)に点状紫斑が現れる
<1.0万/μL … 皮膚(特に足のすね)に点状紫斑が現れます。

紫斑とは?

引用元:カンゴルー
  • 紫斑とは、皮膚にできる青〜赤紫色のアザで、皮膚の下で血管から出血がおこっている状態です。
  • 紫斑は、以下の状態で出来やすくなります。
    • カラダをぶつける
    • 物理的な圧迫
    • 加齢やステロイド治療などで、血管の壁がもろい
    • 血小板が少ない
  • 基本的に紫斑は、自然に出血がおさまりゆっくり吸収され、次第に消えていきます。

良く遭遇する紫斑 ①単純性紫斑

  • 若い女性が「ぶつけた記憶はないのに、手足に青あざがよくできます」と不安そうに受診されることがあります。その多くは単純性紫斑というものです。
  • 単純性紫斑とは、若い女性に多く見られ、毛細血管が弱い人に多く、主にひざから足首にかけて小さな紫斑が現れます。病気ではなく、体質なので安心してください
  • ただし、点状の紫斑紫斑以外の出血(鼻出血、歯肉出血など)がある場合は、血小板が減っている可能性があるのでくわしく調べたほうが良いでしょう。

良く遭遇する紫斑 ②老人性紫斑

  • ご高齢の方に「よく皮膚にアザができるんだけど、血液の病気ですか?」と質問されることがあります。その多くは老人性紫斑というものです。
  • 老人性紫斑とは、年齢とともに毛細血管をまもる組織がへり、血管がもろくなるため、軽い刺激でアザができやすくなります。病気ではなく、年齢による変化なので心配ありません。
  • ただし、急激に増える紫斑や点状の紫斑、紫斑以外の出血(鼻出血、歯肉出血など)がある場合は、血小板が減っている可能性があるのでしっかり調べたほうが良いでしょう。

4. 血小板減少の原因と対応

血小板減少の原因は、骨髄で血小板がうまく作れない(産生低下) 作られた血小板が壊される(消費/破壊の亢進) 血小板がカラダの一部に集まってしまう(分布異常)④その他 に分けられます。

治療の必要のない病気から緊急で治療が必要な病気までさまざまです。
ここでは、頻度の多い血小板減少の原因について簡単に解説します。

血小板減少の主な原因
  • 産生低下
    • 血液疾患
      • 骨髄異形成症候群
      • 再生不良性貧血
    • 薬剤(抗がん剤など)
    • 肝硬変
    • ウイルス感染症
    • アルコール依存症
    • 放射線治療
  • 消費/破壊の亢進
    • 血液疾患
      • 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
      • 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
      • 溶血性尿毒症症候群(HUS)
    • 薬剤(抗生剤、ヘパリンなど)
    • 膠原病
      • 全身性エリテマトーデス(SLE)
      • 抗リン脂質抗体症候群(APS)
    • 播種性血管内凝固症(DIC)
    • 敗血症
  • 分布異常
    • 肝硬変
  • その他
    • 偽性血小板減少症
    • 妊娠

4-1. 偽性血小板減少症

偽性(ぎせい)血小板減少症とは、血液検査の過程で血小板が固まってしまい見かけ上、血小板が少なくなるというものです。つまり、実際のカラダの中の血小板は正常です。

以下のような原因でおこります。

偽性血小板減少症の原因
  • 採血に時間がかかってしまった時
    • 血液が固まってしまうため
  • 血液を採血管の中でしっかり混ぜなかった時
    • 採血管の中にあるEDTA(抗凝固剤)と混ざっていないため
  • EDTA(抗凝固剤)で血小板が固まってしまう時(EDTA凝集性血小板減少)
    • まれに、EDTAにより血液が固まってしまうことがあるため

偽性血小板減少症の特徴は、高度の血小板減少にもかかわらず出血症状がないことです。診断は、検査結果で血小板が凝集していることで確認します。

EDTA凝集性血小板減少の対応としては、EDTA以外の抗凝固剤(フッ化ナトリウムなど)の入った採血管で採血します。すると、血小板は凝集しないので、血小板は正常値に戻ります。

4-2. 薬剤性血小板減少症

薬剤性血小板減少症(Drug-Induced Thrombocytopenia:DIT)とは、薬の副作用で血小板が減少する状態をいいます。薬によって血小板が減る原因は、血小板がうまく作れなくなったり、血小板が壊されたりすることによって起こります。

血小板減少をおこす主な薬剤
  • 抗凝固薬
    • ヘパリン
    • 低分子ヘパリンなど
  • 循環器薬
    • キニン、キニジンなど
  • 抗菌薬
    • ペニシリン系
    • セファロスポリン系
    • バンコマイシン
    • バクタなど
  • 抗痙攣薬
    • バルプロ酸
    • カルバマゼピンなど
  • 胃薬
    • H2-blocker
  • 鎮痛薬
    • NSAIDs
  • 利尿剤
    • フロセミド
    • サイアザイドなど
  • 抗がん剤
  • 免疫抑制剤
    • アザチオプリン
    • シクロスポリンなど

血小板が下がる直前に始まった薬剤は、薬剤性血小板減少の原因となっているかもしれません。お薬手帳や点滴の薬を調べる必要があります。対応は薬剤の中止で、中止後5~7日程で血小板は自然に回復します。

4-3. 血液疾患

① 特発性血小板減少性紫斑病

特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic ThrombocytoPenia:ITP)とは、免疫異常によって血小板が壊されてしまう病気で、自己免疫疾患の一つです。
紫斑を認めない症例も多く存在することから、国際的には免疫性血小板減少症(Immune Thrombocytopenia:ITP)と呼ばれています。
白血球や赤血球は正常で血小板のみが少なく他の病気がない時に診断されます。

治療はピロリ菌の除菌、副腎皮質ステロイド、TPO受容体作動薬などの投与が行われます。

② 骨髄異形成症候群

骨髄異形成症候群とは、赤血球、白血球、血小板などの血液細胞のもとになる造血幹細胞に異常がおき、正常な血液細胞がつくられなくなる病気です。
単独の病気ではなく、複数の病気からなる症候群の集まりと考えられています。

高齢者に多い病気で、65歳以上によく見られます。
2系統以上の血球減少を認める場合が多いが1〜10%の症例では、血小板減少のみが認められます。

血液検査での血球減少と骨髄検査で形態異常や遺伝子異常で診断し、治療は輸血などの支持療法に化学療法や造血幹細胞移植が行われます。

③ 再生不良性貧血

再生不良性貧血とは、免疫異常によって赤血球、白血球、血小板などの血液細胞のもとになる造血幹細胞が壊されてしまい骨髄低形成と汎血球減少をきたす病気です。
2系統以上の血球減少を認める場合が多いが一部の症例では、病初期に血小板減少のみが認められることがあります。

血漿TPO濃度や骨髄検査、胸腰椎MRIなど診断し、治療は免疫抑制療法や造血幹細胞移植が行われます。

骨髄検査とは?

引用元:https://www.gan-kisho.novartis.co.jp/mpn-info
  • 骨髄検査とは、腰の骨に針を刺し骨の中にある骨髄をとる検査です。
  • 骨髄検査には、骨髄穿刺(せんし)と骨髄生検(せいけん)の2種類があります。
    • 骨髄穿刺 … 骨髄の中の液体(骨髄液)をとる検査です。細胞の数や形、遺伝子検査や染色体検査などを行います。
    • 骨髄生検 … 骨髄そのもの(骨髄組織)をとる検査です。骨髄をそのままの状態で観察できるので、細胞の密度や線維化などがわかります。
  • 検査の際は局所麻酔で痛みを和らげますが、骨髄液を抜き取るときに特有の痛みがあります。
  • 検査時間は10~20分程で終わり、検査後に30分間仰向けで安静にします。穿刺部位の血が止まったのを確認できれば、帰宅できます。
  • 検査後は出血しやすいので、運動や入浴、アルコール摂取は控えましょう

4-4. ウイルス感染症

ウイルス感染症では、白血球や血小板が減ることがあります。症状としては、発熱や喉の痛み、リンパ節の腫れ、皮疹などを認めることがあります。

治療は細菌感染と違い、抗菌薬(抗生物質)は効きませんので自分の免疫で治るのを待ちます。場合によっては抗ウイルス薬を使います。ウイルス感染症が改善されれば、血小板も回復します。

4-5. 肝硬変

アルコールやウイルス性肝炎、脂肪肝などで肝臓の障害が徐々に進行すると、肝臓が硬くなる「肝硬変」になります。肝硬変では、門脈圧が亢進することにより脾臓が大きくなります(脾腫)。脾臓は血小板を貯めておく役割があるので、脾腫になると血球減少をおこします。

また、肝炎ウイルスやアルコールによる血球産生の抑制などが関与しているともいわれています。

対応としては、肝硬変の治療を行い、進行を抑えることが重要です

4-6. 膠原病

全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)とは、自己抗体によって全身の臓器に炎症をおこす自己免疫疾患です。免疫の異常により、白血球減少、貧血、血小板減少をおこすことがあります。

対応としては、病気の活動性を評価して、副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制剤が使われます。

抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体症候群(Anti-Phospholipid antibody Syndrome:APS)とは、血液中に抗リン脂質抗体とよばれる自己抗体ができ、静脈や動脈に血栓を作ったり流産を繰り返すなどの妊娠合併症を起こす病気です。

APSでは血小板減少をおこすことがありますが、軽度の血小板減少のため治療が必要となることはほとんどありません。

APSの治療は、抗血小板薬や抗凝固薬を投与して、血栓や妊娠合併症を予防します。

4-7. 播種性血管内凝固症

播種性血管内凝固症(Disseminated Intravascular Coagulation:DIC)とは、さまざまなの原因で小さな血栓が全身の血管のあちこちにできて、細い血管を詰まらせる病気です。

血栓のために血小板と凝固因子を使い果たしてしまい、出血を引き起こすこともあります。

対応は、DICの原因となっている病気を治療することです。

4-8. 妊娠

妊娠すると血液量の増加や血小板の消費によって、血小板は妊娠が進むにつれ減少していきます。
妊婦さんの約10%に血小板減少を認めますが、ほとんどは10〜15 万/μLと軽度な血小板減少です。

妊娠中の血小板減少の原因の多く(約70%)は妊娠性血小板減少症(Gastational thrombocytopenia:GT)といわれる治療の必要がないものです。
主に妊娠中期〜後期に発症し、出産後 1~2ヶ月以内に自然に回復します。胎児に血小板減少は起こしません。

妊娠中の血小板減少の原因には、HELLP、妊娠高血圧症、胎盤早期剥離などの妊娠合併症、ITPやSLEなどの自己免疫疾患のこともあるので注意が必要です。

5. 血小板減少の調べ方【血液内科医の視点】

私たち血液内科医は血小板減少をどのように考えて診断しているか、簡単にまとめてみました。問診や内服薬の確認、診察、血液検査、骨髄検査から原因を探していきます。

血小板減少の調べ方
  1. 出血傾向のチェック
    • 高度の血小板減少にもかかわらず出血傾向がなければ、偽性血小板減少症を疑います。
    • 出血傾向が強ければ、入院での検査や輸血を含めた治療を考えます。
  2. 赤血球、白血球のチェック
    • 血小板以外の他の血球にも異常があれば、まず血液の病気を考えます。
      • 汎血球減少や芽球の増加 … 骨髄異形成症候群や急性白血病など
      • 汎血球減少のみ … 再生不良性貧血
      • 貧血、破砕赤血球、網赤血球の上昇 … TTP/HUS、Evans症候群など
      • 白血球減少、異型リンパ球 … ウイルス感染症
  3. 凝固検査の確認
    • FDPの上昇があれば、凝固が亢進している証拠 … 播種性血管内凝固症
  4. 問診で基礎疾患や内服薬の確認
    • 基礎疾患や内服薬から血小板減少の原因を推測できることがあります。
      • 過去にB型肝炎やC型肝炎、アルコール多量摂取 … 肝硬変
      • 発熱、喉の痛み、リンパ節腫大 … ウイルス感染症
      • 発熱、関節痛、皮疹、口内炎など … 全身性エリテマトーデス
      • 過去に血栓症や流産、子宮内胎児発育不全 … 抗リン脂質抗体症候群
      • 新しい薬剤の開始 … 薬剤性血小板減少
  5. 診断がつかなければ、特発性血小板減少性紫斑病を疑う

最後まで読んでいただきありがとうございました!リウマチや血液の病気などの別の記事も参考にしていただけると幸いです。お疲れ様でした。

つか
医師・医学博士。
専門はリウマチ膠原病内科と血液内科です。
これまで大学病院や訪問診療で、関節リウマチと血液疾患の患者さんの診断・治療・自宅療養のサポートをして参りました。
リウマチと血液疾患で悩む患者さんに、笑顔と安心を届けることが私の使命と考えています。
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