【シェーグレン症候群】リウマチ科医が症状、診断、治療、日常生活で気をつけるポイントをわかりやすく解説

シェーグレン症候群(SjS)とは、涙腺や唾液腺などの外分泌腺を中心に炎症を起こす、全身性の自己免疫疾患です。SjSの症状は、ドライアイやドライマウスなどの腺症状と腺外症状に分けられます。SjSの診断は、血液検査や眼科検査、耳鼻科検査を組み合わせて行ないます。SjSの主な治療は、ドライアイやドライマウスに対する対症療法です。

血液検査でシェーグレン症候群の可能性があると言われました。
どんな病気ですか?

シェーグレン症候群はリウマチに合併することのある、膠原病ですよ。

シェーグレン症候群は、涙や唾液を作っている臓器(外分泌腺)を中心に炎症を起こす全身性の自己免疫疾患です。主に、ドライアイやドライマウスなどの乾燥症状が出現します。
シェーグレン症候群は関節の痛みや腫れを起こすことがあるため、関節リウマチの精査の際に偶然診断されることがあります。

この記事を読めば、シェーグレン症候群の症状、診断から治療、日常生活を送る上で気をつけるポイントがわかると思います。

この記事のまとめ
  • シェーグレン症候群(SjS)とは、涙腺や唾液腺などの外分泌腺を中心に炎症を起こす、全身性の自己免疫疾患です。
  • SjSの症状は、ドライアイやドライマウスなどの腺症状腺外症状に分けられます。
  • SjSの診断は、血液検査や眼科検査耳鼻科検査を組み合わせて行ないます。
  • SjSの主な治療は、ドライアイやドライマウスに対する対症療法です。
目次

1. シェーグレン症候群ってどんな病気?

シェーグレン症候群(Sjögren症候群:SjS)は、涙や唾液を作っている臓器(外分泌腺)を中心に炎症を起こす全身性の自己免疫疾患です。主に、ドライアイやドライマウスなどの乾燥症状が出現します。

以下のような特徴があります。

シェーグレン症候群の特徴
  • 中年以降の女性に多い
    • 男:女=1:17
    • 主な発症年齢 40~60歳代
  • 比較的まれな病気
    • 日本の患者数 約7万人
  • 一次性:二次性=6:4
    • 一次性 … 膠原病に合併しない
    • 二次性 … リウマチ(約40%)や全身性エリテマトーデス(約20%)などに合併
  • 腺型:腺外型=7:3
    • 腺型 … 病変が涙腺や唾液腺などの外分泌腺に限局
    • 腺外型 … 病変が外分泌腺だけでなく、全身の臓器に及ぶ
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2. シェーグレン症候群の症状

シェーグレン症候群の症状は、腺症状腺外症状に分けられます。

2-1. 腺症状

涙腺

涙腺からの涙液の分泌量が減少するので、眼が乾く異物感、眼の痛み、眼のかゆみなどのドライアイの症状があらわれます。

ときに、涙腺が腫れることがあります。

唾液腺

唾液腺からの唾液の分泌量が減少するので、口が乾く口がネバネバするなどのドライマウスの症状があらわれます。ドライマウスは約75~90%に認められます。
また、唾液が減少するため、むし歯や歯周病が多発することがあります。

ときに、唾液腺腫脹として耳下腺や顎下腺が腫れることがあります。

鼻腔、咽喉頭、気管、膣

乾燥症状は涙腺や唾液腺以外にも鼻腔、咽喉頭、気管、膣膣の粘膜にも見られます。
鼻が乾燥したり、喉がヒリヒリしたり、空咳が出たり、性交痛を認めることがあります。

2-2. 腺外症状

シェーグレン症候群は全身性の自己免疫疾患のため、乾燥症状以外にも様々な全身症状や臓器障害、他疾患の合併を認めることがあります。

シェーグレン症候群の腺外症状
  • 全身症状
    • 倦怠感や発熱
  • 皮膚
    • 環状紅斑(輪っかのような赤みで顔面に出現することが多い)(9%)
    • 皮膚血管炎(点状紫斑、潰瘍、蕁麻疹様)
    • レイノー現象(35%)
    • 薬疹(薬によるアレルギーが出やすい)
    • 乾燥によるかゆみ
  • 関節、筋肉
    • 関節に炎症を起こし、痛みや腫れが生じる
    • 筋肉痛や筋力低下
  • (16%)
    • 間質性肺炎
    • 気管支拡張症
    • 結節性陰影
  • 腎臓
    • 間質性腎炎(尿細管性アシドーシス)(9%)
    • 糸球体腎炎(4%)
  • 甲状腺
    • 橋本病(甲状腺機能低下症)
  • 心臓
    • アミロイドーシス
  • 神経
    • 末梢神経障害
      • 多発性神経炎、脳神経障害、多発性単神経炎(しびれや感覚異常、視力低下、顔面神経麻痺など)
    • 中枢神経障害(19%)
      • 視神経炎や脳炎、髄膜炎など(視力低下や意識障害、頭痛など)
  • 膵臓
    • 自己免疫性膵炎
  • 肝臓
    • 自己免疫性肝炎
    • 原発性胆汁性肝硬変
  • 血液
    • 悪性リンパ腫(特にMALTリンパ腫)、原発性マクログロブリン血症
    • 血球減少
      • 白血球減少(12~22%)
      • 貧血(20%)
      • 血小板減少(5~13%))

3. シェーグレン症候群の原因

シェーグレン症候群では、HLA抗原などの遺伝的素因にウイルス感染、女性ホルモンの不足などの環境因子が加わり、免疫異常を起こすと考えられています。
わかりやすく言うと、シェーグレン症候群を発症しやすい体質の方が、ウイルスなどの感染症で一部の唾液腺組織が壊れることで自己抗原が流失し、この抗原に対して免疫反応が生じてしまい、唾液腺が炎症を起こすと考えられています。

しかし、発症の原因はいまだ完全には解明されていません

4. シェーグレン症候群の診断

ドライアイやドライマウスがみられる場合に、シェーグレン症候群が疑われます。

血液検査で自己抗体を測定したり、眼科や耳鼻科で涙や唾液の分泌量を調べることで診断します。また、唾液腺や涙腺の一部を取り、炎症細胞の存在を確認することで確定診断となる場合もあります。

シェーグレン症候群は指定難病のため、重症度(ESSDAI >5点)により医療助成の対象となることがあります。

シェーグレン症候群の診断基準(厚生省1999年)

下の4項目中2項目当てはまればシェーグレン症候群と診断

  1. 生検病理組織検査
    • 次のいずれか一つ
      • 口唇腺組織で4mm2辺り1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
      • 涙腺組織で4mm2辺り1focus以上
  2. 口腔検査
    • 次のいずれか一つ
      • 唾液腺造影でstageI(直径1mm未満の小点状陰影)以上の異常所見
      • 唾液分泌量低下(ガム試験にて10分間で10ml以下、もしくはサクソンテストで2分間で2g以下)があり、かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見
  3. 眼科検査
    • 次の二つ
      • シルマー試験で5分間に5mm以下
      • ローズベンガル試験(Van Bijsterveldスコア)で3以上、もしくは蛍光色素試験で陽性
  4. 血清検査
    • 次のいずれか一つ
      • 抗Ro/SS-A抗体陽性
      • 抗La/SS-B抗体陽性

唾液腺造影 … 造影剤をステノン管から注入し、耳下腺を造影する検査
サクソンテスト … 乾燥したガーゼを2分間かんで、唾液重量を測定する方法
ガムテスト … ガムを10分間かんで、出てくる唾液量を測定する方法
シルマーテスト … ろ紙を下眼瞼粘膜にかけ、5分間の涙液を測定する方法
ローズベンガル試験、蛍光色素試験 … 角結膜上皮障害(乾燥性角結膜炎)を評価する検査

5. シェーグレン症候群の治療

現状では、シェーグレン症候群を完治できる治療法はありません。症状を緩和させる対症療法がメインになります。

腺症状と腺外症状によって、治療法が異なります。

5-1. 腺症状

  • ドライアイ
    • 点眼薬
      • ヒアレイン®点眼液、ジクアス®点眼液、ムコスタ®点眼液などが使われます。
      • 難治性の場合は涙点プラグの挿入が行われます。
  • ドライマウス
    • 唾液の分泌を促す内服薬人工の唾液の補充
      • 分泌促進の薬剤であるサラジェン®錠、エボザック®カプセル、サリグレン®︎や人工唾液であるサリベート®などが使われます。
    • 唾液分泌を促す食品
      • 梅干し、レモン、シュガーレスガムなど
  • 再発性の唾液腺腫脹
    • 症状によって、抗生剤や副腎皮質ホルモンの内服を行います。

5-2. 腺外症状

  • 発熱やリンパ節腫脹
    • 鎮痛剤(NSAIDs)や副腎皮質ステロイド(PSL 5~15mg/日)が使われます。
  • 関節痛
    • 鎮痛剤(NSAIDs)や関節リウマチに準じてメトトレキサートが使われます。
  • レイノー現象
    • 末梢血管拡張剤や抗血小板剤が使用されます。
  • 重症の臓器障害
    • 免疫を抑制する効果がある副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤といった治療薬が用いられます。

6. 日常生活で気をつけるポイント

シェーグレン症候群の予後は一般的に良好ですが、症状とうまく付き合っていく必要があります。

また、中には末梢神経障害、間質性肺炎、腎病変などの重症な腺外病変を発症することがあるので、長期にわたって観察が必要です。

下記の点に注意して、日常生活を送りましょう。

  • 乾燥症状を予防しましょう
    • 室内で加湿器を上手に使う
    • マスクを着用する
    • こまめにうがいする
  • 毎日の口腔ケアと歯科への定期的な受診を心がけましょう
    • 唾液が少ないため、虫歯になりやすい
  • レイノー症状には、指先の保温と保湿を心がけましょう
    • 手袋やホッカイロの使用、家事の際は冷水ではなくぬるま湯などを使用
  • 光線過敏などの皮疹のある方は紫外線対策をしましょう
  • 規則正しい生活、休養をとり、精神的ストレスを避けましょう
    • ストレスは、病気を悪くするキッカケになる
  • 首や脇、太ももの付け根などにしこりがないか、確認しましょう
    • 約5%の症例に悪性リンパ腫の合併
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参考文献

つか
医師・医学博士。
専門はリウマチ膠原病内科と血液内科です。
これまで大学病院や訪問診療で、関節リウマチと血液疾患の患者さんの診断・治療・自宅療養のサポートをして参りました。
リウマチと血液疾患で悩む患者さんに、笑顔と安心を届けることが私の使命と考えています。
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