「人生の最期をどこで過ごしたいか?」厚生労働省のアンケート調査を元に解説

人生の最期をどこで過ごしたいか?

訪問診療で介入している多くの患者さんは「できれば、最期まで自宅で過ごしたい」と希望されます。しかし、実際は病状や介護するご家族の状況などにより難しいケースも少なくありません。

私たちが人生の終わりを迎える場所について、あまり考えることはないかもしれません。しかし、家族と過ごす時間や、安心できる環境の中で心穏やかに最後を迎えることは、多くの人にとって大切なテーマです。

この記事では、厚生労働省や日本緩和医療学会が実施したアンケートをもとに、多くの人々がどこで最期を迎えたいと考えているのか、さらにその理由や現実とのギャップについて、深く掘り下げてみます。


目次

1. アンケート結果の概要

厚生労働省による「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査:調査の結果」(令和4年)では、「最期をどこで過ごしたいか」という問いに対して、約半数の人が「自宅で迎えたい」と答えています。その内訳は以下の通りです。

引用元:人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査:調査の結果
  • 自宅を希望:約60%  
    自宅は長年の思い出が詰まった場所であり、家族やペットと共に心穏やかに過ごしたいと考える方が多いのです。
    「自分の家が一番安心できる」と考える人は年齢や健康状態に関わらず多く見られ、アンケート結果からもその思いが強く伝わってきます。
  • 病院を希望:約30%  
    病院は医療機器や医療スタッフが常にいる環境で、急な症状の変化にも対応できます。
    体調が不安定な方や、何らかの治療を受けながら最期を迎えたいと考える人にとって、病院で過ごすことが一番安心できる選択肢です。
  • ホスピスや施設を希望:約10%  
    ホスピスや高齢者施設は、終末期の患者さんが安らぎと穏やかさを感じながら過ごせるように工夫されています。
    特にホスピスは、痛みや不安を和らげる緩和ケアが専門的に行われているため、「静かな環境で、苦しみの少ない最期を迎えたい」と考える人が多く選んでいます。

一方で、実際にどこで亡くなっているかを示すデータからは、理想と現実に大きな差があることが分かります。厚生労働省の最新の統計(2022年)によると、実際の最期の場所の割合は以下の通りです。

  • 病院:約73%  
    実際には多くの方が病院で亡くなっているのが現状です。
    24時間体制で医療ケアが整っているため、急な症状の悪化や変化に対応できる環境であることから、選択されやすくなっています。
  • 自宅:約15%  
    多くの人が自宅での最期を希望しているものの、現実には自宅で最期を迎える人は少数です。
    これは、訪問医療や家族の介護負担といった要素が影響していると考えられます。
  • ホスピスや施設:約12%  
    専門的な緩和ケアが行われるホスピスや高齢者施設での看取りも増えています。
    ホスピスでは、痛みや苦しみを緩和し、家族とともに静かで穏やかな環境で最期を迎えることができるため、近年注目が集まっています。

このように、理想としては自宅で過ごしたいと考える人が多い一方で、医療体制や家族負担の問題により、実際には病院での看取りが主流となっています。
ここには、医療や介護の体制といった現実的な要因が大きく関わっていると考えられます。


2. 自宅を希望する理由

「自宅で最期を迎えたい」と多くの方が望む理由には、心から安らげる環境で、家族や大切な人々と一緒に過ごしたいという思いが根底にあります。ここではその理由を掘り下げていきます。

  • 家族と過ごす安心感  
       人生の最期において、家族と一緒に過ごす時間はかけがえのないものです。病院や施設では面会の時間や人数が制限されることが多く、最期を迎える瞬間にも家族がそばにいられない可能性もあります。
    しかし自宅なら、家族が常にそばにいて気兼ねなく過ごすことができ、顔を見て声を聞きながら過ごせます。「家族に囲まれ、見守られていたい」という願いは自然なもので、ご本人にも家族にも大きな支えとなります。
  • 慣れ親しんだ場所での安心感  
       自宅には長年の思い出が詰まっており、見慣れた景色や匂い、温もりが心を落ち着かせてくれます。例えば、子どもの頃から過ごしてきた庭、家族と共に過ごしたリビングのソファ、そして台所の香り――こうした小さな要素が心に安らぎを与えます。
    住み慣れた場所で最期を迎えたいという思いは、自分自身の人生を大切にしたいという気持ちから生まれているのです。
  • 自由な生活  
       病院では、どうしてもルールや制限が多く、時間の流れも医療行為に左右されることが多くなります。
    一方、自宅では自分の好きな時に休んだり、音楽を聴いたり、家族や友人とゆっくり話すなど、「自分のリズム」で生活を送ることができます。こうした自由さは、最期まで「自分らしく生きたい」と願う人にとって重要な要素です。
    自宅での看取りは、本人らしい生き方を尊重できるという点でも、多くの人が望む選択肢と言えるでしょう。

3. 自宅で最期を迎える難しさ

自宅で最期を迎えたいと考える人が多いものの、現実にはさまざまな問題が伴います。ここではその背景にある課題について解説します。

  • 医療のサポートが不足  
       自宅で最期を迎えるためには、訪問診療や看護のサポートが不可欠です。特に、病状が進行している患者さんにとっては、緊急時に医療スタッフが駆けつけられる体制が必要です。
    しかし、地域によっては医療スタッフや訪問看護師の人数が不足しており、十分な支援が受けられない場合もあります。こうした体制が整っていないと、家族が医療の対応を心配し、自宅での看取りが難しくなることがあります。
  • 家族の負担  
       ご家族が24時間体制で看護や介護にあたるのは、精神的にも身体的にも大きな負担です。特に長期にわたる場合、家族が体力的・精神的に疲弊してしまうことも少なくありません。
    家族が仕事や日常生活を保ちながら支えることは難しく、一人で抱え込まないために訪問医療・介護サービスの支援が欠かせません。多くの方が自宅で最期を迎えることを望む中で、家族にかかる負担を少しでも軽減できる仕組みが求められています。
  • 急変時の対応  
       最期の時間が穏やかに過ぎていけば良いですが、実際には急変が起こることも少なくありません。
    自宅で過ごす場合、急な体調の変化にどう対応すべきかを家族が心配することも多くあります。訪問診療や訪問看護の体制が整っていれば、何か起きた時にも迅速に対応できるため、家族も安心して見守ることができるでしょう。

4. 病院やホスピスの選択

自宅での看取りが難しい場合でも、病院やホスピスでのケアにはそれぞれの魅力があります。

  • 病院での看取り  
       病院は24時間体制で医療が提供され、急変があってもすぐに対応してもらえます。特に呼吸器や点滴など医療機器が必要な場合や頻繁な治療が必要な場合には、病院での最期が適していることもあります。
    医療スタッフが常にそばにいることで、ご本人もご家族も安心して過ごすことができる環境が整っています。
  • ホスピスでの看取り  
       ホスピスは緩和ケアに特化した施設で、痛みや苦しみを和らげるケアが充実しています。
    また家族が自由に訪れることができる面会室や、リラックスできるスペースが設けられており、あたたかい雰囲気の中で最期を迎えることができます。
    「苦しみを和らげながら、穏やかに過ごしたい」という希望がある場合、ホスピスは理想的な選択肢と言えるでしょう。

5. 自宅で最期を迎えるためには

自宅で最期の時を迎えることは、ご本人だけでなく、その人を愛する家族にとってもかけがえのない時間になります。いつも一緒に過ごした家で、大切な人たちに見守られながら、穏やかに過ごす最後のひとときには、特別なぬくもりが宿ります。

自宅で最期を迎えることで、慣れ親しんだ空間に身を置き、心安らかに「自分らしい時間」を過ごせるのは、ご本人にとっても家族にとっても、大切な思い出となるでしょう。

訪問診療と訪問看護のサポート体制

自宅での看取りには、医療や看護の支援が不可欠です。訪問診療や訪問看護のサービスがあれば、定期的に医師や看護師が訪れて健康状態を確認し、必要に応じてケアを行ってくれます。
緊急の対応が必要なときも、電話一本で頼れるサポートがあるのは家族にとって大きな安心材料です。「もし何かあっても、いつでもすぐに助けてもらえる」――その安心感が、ご家族が焦ることなく見守りの時間に集中できる大きな支えとなります。

医療のサポートがあることで、家族も「最期のときまで、自宅で一緒に穏やかに過ごしたい」という本人の思いを叶えられるでしょう。こうした支援によって、ご家族も心穏やかに、愛する人と安心して過ごすことができるのです。

家族の負担を軽減するサポートサービス

長い見守りの中で、家族が無理なく介護にあたれるよう、地域のサポートサービスを活用することがとても大切です。
訪問介護や福祉用具のレンタル、デイサービスなどの利用により、毎日の介護の負担が軽減されます。例えば、福祉用具のレンタルによって、家の中でもご本人が快適に過ごせる環境を整えることができ、介護をする家族も体力的な負担を減らすことができます。

こうしたサービスがあることで、家族の一人ひとりが無理なく、お互いに支え合いながら、気持ちに余裕を持ってケアに取り組める環境が生まれます。「この時間を大切に過ごしたい」という気持ちを持ち続けながら、家族全員が心を込めたケアを続けられることは、大きな安心につながります。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の活用

厚生労働省が推進する「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」は、最期の迎え方について事前に話し合いを持つ大切なプロセスです。
ACPでは、ご本人と家族がゆっくりと時間をかけて、どのように最期の時を過ごしたいか、どのような医療やケアを望むかについて話し合います。これにより、もしもの時にも家族が迷うことなく、本人の意思に沿った対応を行うことができます。

「自分らしい最期を、自分らしい場所で迎えたい」――その思いを事前に話し合うことで、ご本人も安心して、家族も力強いサポートとして支える準備が整います。
また、医療者と共有することで、希望に沿ったサポートがよりスムーズに提供され、本人と家族が共に安心して最期の時を過ごす環境が整っていくのです。


まとめ

アンケート結果からも、多くの方が「自宅で最期を迎えたい」と望んでいますが、実際には医療支援や家族負担の問題により病院での看取りが多い現実があります。
医療体制や訪問看護の充実が進めば、自宅での看取りも現実的な選択肢となっていくでしょう。

どの場所であっても、穏やかで安心した最期を迎えられるよう、家族や医療者と話し合いをして、少しでも望む場所で過ごす準備を進めることが大切です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次