【汎血球減少】健診で血球が少ないと言われたら? 血液専門医がわかりやすく解説

白血球、赤血球、血小板の全ての血球が少ない状態を汎血球減少といいます。原因を調べるために、血液検査でビタミンの確認、問診で現在の内服薬や治療歴、過去の病気を確認します。汎血球減少は血液の病気が原因のことが多く、骨髄検査が必要になることがあります。汎血球減少の原因精査は、血液の専門家である血液内科で行います。

かかりつけの先生に血液検査で血球が少ないね、と言われました。
経過を見ていても大丈夫なのかなぁ。

血球が少ない理由は人それぞれです。
一度、血液内科で詳しく調べた方が安心ですね。

健診や他の病気の検査で、偶然、血球減少を指摘されることがあります。いろいろな血球減少の中で、すべての血球(白血球、赤血球、血小板)が少ない状態汎血球減少といいます。汎血球減少の原因は、血液の病気である可能性が高いので注意が必要です。

この記事のまとめ
  • 白血球、赤血球、血小板の全ての血球が少ない状態を汎血球減少といいます。
  • 原因を調べるために、血液検査でビタミン値の確認、問診で現在の内服薬や治療歴、過去の病気を確認します。
  • 汎血球減少は血液の病気が原因のことが多く、骨髄検査が必要になることがあります。
  • 汎血球減少の原因精査は、血液の専門家である血液内科で行います。
目次

1. 血球の働き

私たちの血液には、血球とよばれる血液の細胞が存在しています。血球は白血球、赤血球、血小板の3種類があり、それぞれの下記の役割があります。これらの血球は、血液の工場である骨髄で作られ、血液中に送られます。

血球の働き
  • 白血球 
    • カラダに侵入した細菌やウイルスなどを除去する、免疫の機能をもつ
  • 赤血球
    • 肺で酸素をうけとり全身にはこぶ
  • 血小板
    • ケガをして出血したときに傷口にあつまり、傷口をふさいで血を止める

2. 汎血球減少とは?

白血球赤血球(ヘモグロビン)血小板
汎血球減少< 4000/μL< 12 g/dL(男)< 11 g/dL(女)< 10万/μL
汎血球減少の診断基準

汎血球減少(はんけっきゅうげんしょう)とは、白血球、赤血球、血小板の全てが減少している状態です。

「白血球と血小板」や「赤血球と血小板」など2系統の血球が減少している場合も、原因は汎血球減少と同じであることが多いため、汎血球減少と同様に検査を進めていきます。

3. 汎血球減少の症状

汎血球減少の初期は自覚症状がほとんどないため、多くは血液検査で偶然に発見されます。

汎血球減少が進行してくると、それぞれの血球減少による症状を認めます。

血球減少の症状
  • 白血球減少
    • 感染症にかかりやすくなり、発熱などの感染症状
  • 赤血球減少
    • 貧血による疲れやすさ息切れ、眠気、頭痛など
  • 血小板減少
    • 出血しやすくなり、皮膚の青あざや出血がおきる

3. 汎血球減少の原因と対応

汎血球減少の原因には様々なものがあります。

大きく分けると、血球がうまく作れない産生低下作られた血球が壊されてしまう消費/破壊の亢進に分けられます。

汎血球減少の主な原因
  1. 産生低下(血液がうまく作れない)
    • 材料不足
      • ビタミンB12、葉酸(巨赤芽球性貧血)、銅
    • 血液疾患
      • 骨髄異形成症候群、急性白血病、再生不良性貧血、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫の骨髄浸潤など
    • 薬剤
      • 抗がん剤など
    • 感染症
      • ウイルス、細菌(結核など)
    • アルコール多飲/慢性肝疾患/肝硬変
    • がんの骨髄転移
    • 放射線治療
  2. 消費/破壊の亢進(作られた血球が壊されてしまう)
    • 膠原病
      • 全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、混合性結合組織病など
    • 薬剤
    • アルコール多飲/慢性肝疾患/肝硬変
    • 感染症
    • 血球貪食症候群
  • 外来で頻度の多い原因は、骨髄異形成症候群アルコール多飲/慢性肝疾患/肝硬変があります。
  • 緊急で対応が必要な病気は、急性白血病再生不良性貧血という血液の病気です。

頻度の多い原因や重要な病気について、病気の解説と治療について簡単に説明させて頂きます。詳しい内容については、主治医の先生に伺ってみて下さい。

3-1. ビタミンB12、葉酸の不足(巨赤芽球性貧血)

ビタミンB12や葉酸は、血球を作るために必要な栄養素です。ビタミンB12や葉酸が何らかの原因で不足すると、汎血球減少をおこします。この病気を巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)といいます。

血液検査では大球性貧血(赤血球のサイズが大きい)が特徴的で、ビタミンB12や葉酸を測定すれば診断がつきます。

治療は、不足するビタミンの補充です。

3-2. 薬剤

汎血球減少の原因となる主な薬剤
  • 抗癌剤
  • 抗リウマチ薬 … メトトレキサート
  • 抗甲状腺薬 … プロピルチオウラシル
  • 抗精神病薬 … フェノチアジン系など
  • 循環器薬 … プロカインアミド、フレカイニド、ACE阻害薬など
  • 抗血小板薬 … チクロジピン
  • 抗菌薬 … クロラムフェニコール、ST合剤、ペニリシン、テトラサイクリンなど
  • 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs) … ボルタレン®︎、ナイキサン®︎など
  • 抗痙攣薬 … フェニトイン、カルバマゼピン
  • 抗マラリア薬 … プラケニル®︎(クロロキン)

薬の副作用によって汎血球減少をおこすことがあり、薬剤性血球減少症とよばれます。薬による血球の産生低下や破壊亢進などが関与しています。

血球が下がり始めた時期に始まった薬は、薬剤性血球減少の原因となっているかもしれません。お薬手帳で内服薬をチェックします。

治療は、原因薬剤の中止です。

3-3. 血液の病気

血液の病気では、異常な細胞が骨髄で増えたり、血液の赤ちゃんである造血幹細胞が減少することで、血球がうまく作れなくなり、汎血球減少をおこします。

血液の病気には多くの種類があり、正確な診断のために骨髄検査が必要となります。

骨髄検査とは?

引用元:https://www.gan-kisho.novartis.co.jp/mpn-info
  • 骨髄検査とは、腰の骨に針を刺し骨の中にある骨髄をとる検査です。
  • 骨髄検査には、骨髄穿刺(せんし)と骨髄生検(せいけん)の2種類があります。
    • 骨髄穿刺 … 骨髄の中の液体(骨髄液)をとる検査です。細胞の数や形、遺伝子検査や染色体検査などを行います。
    • 骨髄生検 … 骨髄そのもの(骨髄組織)をとる検査です。骨髄をそのままの状態で観察できるので、細胞の密度や線維化などがわかります。
  • 検査の際は局所麻酔で痛みを和らげますが、骨髄液を抜き取るときに特有の痛みがあります。
  • 検査時間は10~20分程で終わり、検査後に30分間仰向けで安静にします。穿刺部位の血が止まったのを確認できれば、帰宅できます。
  • 検査後は出血しやすいので、運動や入浴、アルコール摂取は控えましょう

① 骨髄異形成症候群

骨髄異形成症候群(Myelodysplastic Syndrome:MDS)は、血球の赤ちゃんである造血幹細胞の遺伝子に異常が起こり血球の成長が上手くいかず、血球減少が起こる病気です。また、未熟で役に立たない血液細胞(芽球)が増え、急性白血病に移行することがあります。

診断は骨髄検査を行い、異常な細胞の有無と芽球の割合、染色体検査、遺伝子検査などを確認します。MDSの経過は人それぞれなので、検査結果をもとに治療法を決めています。

高齢者で月~年単位でゆっくり進行する汎血球減少をみたら、骨髄異形成症候群をまず考えます。

② 急性白血病

急性白血病(Acute Leukemia)は、未熟で役に立たない血液細胞(芽球)が増え続ける病気です。骨髄で芽球が増えると正常な血球が作られなくなり、出血や感染症によって致命的な経過をとります。

急性白血病の多くは血液検査で白血球が増えますが、約1/4の症例で白血球減少を認めます。また、血液検査では芽球を認めないこともあるので注意が必要です。

診断は骨髄検査を行い、白血病細胞の増殖を確認します。

治療は、抗がん剤を組み合わせた化学療法を行います。再発したり、通常の治療が効かない場合は健康なドナーさんと血液を入れ替える造血幹細胞移植を考えます。

③ 再生不良性貧血(Aplastic Anemia:AA)

再生不良性貧血は、血液細胞の赤ちゃんである造血幹細胞が減少することにより、血球が減少する病気です。

日本の患者さんは約5000人とまれな病気です。

診断は骨髄検査を行い、造血組織が減少し、脂肪組織の増加が認められれば確定します。MDSと区別が難しい場合があり、骨髄の染色体検査や脊椎MRI検査、血清トロンボポエチン濃度などを参考に判断します。

治療は重症度により異なり、薬物療法や造血幹細胞移植などが行われます。

あわせてよみたい:再生不良性貧血

3-4. 慢性肝疾患/肝硬変

アルコールやウイルス性肝炎、脂肪肝などで肝臓の障害が徐々に進行すると、肝臓が硬くなる「肝硬変」になります。肝硬変では、門脈圧が亢進することにより脾臓が大きくなります(脾腫)。脾臓は、古くなった赤血球を壊したり、血小板を貯めておく役割があるので、脾腫になると血球減少をおこします。

また、肝炎ウイルスやアルコールによる血球産生の抑制などが関与しているともいわれています。

対応としては、肝硬変の治療を行い、進行を抑えることが重要です。

3-5. 膠原病

全身性エリテマトーデスなどの膠原病は、自己抗体によって全身の臓器に炎症をおこす自己免疫疾患です。

膠原病では免疫の異常によって、血球減少をおこすことがあります。

対応としては、病気の活動性を評価し、ステロイドなどの免疫抑制剤が使われます。

3-6. 感染症

ウイルス感染症では、異形リンパ球の出現と共に、白血球や血小板が減ることがあります。

細菌感染症でも敗血症(重症の細菌感染)粟粒結核(結核菌が血液をグルグル回る状態)などでは、汎血球減少を認めることがあります。

どちらも感染症が治療により軽快すれば、血球も自然と回復します。

4. 汎血球減少の調べ方【血液内科医の視点】

これまで記載した通り、血球減少をおこす原因は多岐にわたります。私たち血液内科医がどのように考えて診断しているのか、簡単にまとめてみました。汎血球減少を認めた際は、血液疾患の可能性もあるため、血液の専門家である血液内科で精査を進めていきます。

汎血球減少の調べ方
STEP
白血球分画で緊急性のある病気をチェック
  • 芽球や幼弱な細胞の増加 … 急性白血病や骨髄異形成症候群など
  • 異常な細胞 … 悪性リンパ腫など
  • 異型リンパ球 … ウイルス感染症
STEP
ビタミン不足はないか?
  • ビタミンB12や葉酸が低値 … 巨赤芽球性貧血
STEP
問診で自覚症状や基礎疾患、内服薬のチェック
  • 自覚症状や基礎疾患から血球減少の原因を推測
    • 発熱、喉の痛み … ウイルス感染症
    • 発熱、関節痛、皮疹、口内炎など … 全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病など
    • 目や口の乾き … シェーグレン症候群
    • B型、C型肝炎の既往、アルコール多量摂取 … 肝硬変
    • がんの治療中 … 抗がん剤、放射線療法
  • 内服薬の確認
    • 血球減少の原因となる薬剤を内服していないか、内服開始のタイミングと血球減少が関係していないか
STEP
それでも原因が分からない時は骨髄検査
  • 再生不良性貧血や骨髄異形成症候群を疑い、骨髄検査を行います

最後まで読んでいただきありがとうございました!リウマチや血液の病気などの別の記事も参考にしていただけると幸いです。お疲れ様でした。

つか
医師・医学博士。
専門はリウマチ膠原病内科と血液内科です。
これまで大学病院や訪問診療で、関節リウマチと血液疾患の患者さんの診断・治療・自宅療養のサポートをして参りました。
リウマチと血液疾患で悩む患者さんに、笑顔と安心を届けることが私の使命と考えています。
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