【在宅輸血】血液専門医がお家で輸血する手順をわかりやすく解説

私の母は血液の病気で、定期的に病院で輸血をしています。
高齢になってきたので、通院するのも大変です。

体調が良くないのに通院するのは大変ですよね。
環境を整えれば、お家で輸血が出来るかもしれません。

血液の病気の方には長期間、輸血が必要な人がいます。これまで外来で輸血していたけど、高齢になると通院が難しくなっていきます。

今日はお家で輸血という選択肢(在宅輸血)について、これまで多くの在宅輸血を行ってきたつかぽんがわかりやすく解説させて頂きます。この記事を読めば、在宅輸血のはじめ方や実際の流れ、副作用の対応などが理解できると思います。

この記事のまとめ
  • 在宅輸血は、主に通院が困難となった血液の患者さんのための治療です。
  • 在宅輸血を始めるためには、ケアマネージャー訪問看護師主治医、訪問診療の医師で連携をとり、事前に自宅の環境を整える必要があります。
  • 輸血の副作用を認めた際に迅速に対応できるように、治療薬を準備しておきます。
  • アナフィラキシーなどの重い副作用を認めた場合は、病院へ搬送になることもあります。
目次

1. 在宅輸血とは

輸血とは、何らかの原因で足りなくなった血液の成分を補う治療です。補うことができる血液成分は、主に赤血球血小板血漿成分および凝固因子です。

通常は病院の外来や病棟で輸血を行いますが、通院が困難な方は自宅でも輸血をすることが可能で、これを在宅輸血と呼びます。在宅で行われる輸血は赤血球輸血と血小板輸血です。

在宅輸血には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

1-1. 在宅輸血のメリット

  • 通院の労力や病院の待ち時間から解放される
    • 貧血の疲れやすい状態で、通院するのは身体的にきつい
    • 病院で輸血する場合、採血から診察、輸血まで含めると院内滞在時間は5〜6時間以上になることもある
  • 通院や病院内での人との不必要な接触がへる

1-2. 在宅輸血のデメリット

  • 緊急で輸血ができない
    • 在宅輸血は、基本的に計画的に輸血のスケジュールを組みます
  • 頻回の輸血ができない
    • 施設によるが、週1~2回程度が限度
  • 輸血の副作用の対応が遅れてしまうことがある
    • 病院と同じように薬剤や設備を整えることは出来ない

2. 在宅輸血の適応

病院で輸血をしているすべての人が在宅輸血ができるわけではありません。在宅輸血は、以下に当てはまる人で検討しされます。

実際には、在宅輸血は血液の病気で比較的安定した患者さんで行うことがほとんどです。病院での輸血から在宅輸血に移行した患者さんからは「家で輸血が出来るのは本当に楽で、とても助かっています。」と感謝されます。

在宅輸血の適応
  • 対象となる病気
    • 血液疾患、がん、慢性疾患
      • 末期状態の方への輸血は、一般的に勧められません
      • 出血による貧血は、原則として病院で輸血したほうが安全でしょう
      • 心不全や尿量が低下している腎機能障害の状態では、輸血によって心不全が進行する場合があります
  • 通院が難しい
    • 通院できる方は、病院で輸血した方が安全でしょう
  • 病院で輸血したことがあり、重いアレルギー反応を起こしたことがない
    • これまでに重いアレルギー反応が出たことがある方は、病院で輸血をした方が安全です
  • 輸血の頻度が安定している
    • 頻回に(週2〜3回以上)輸血している場合は、在宅での対応は難しい

3. 在宅輸血の準備

在宅輸血の適応があったとしてもすぐに始められるわけではありません。設備や薬剤が揃っている病院とは違い、自宅で輸血をするためには様々な環境調整が必要になります。

まずは自宅で輸血が出来るよう、① 訪問診療の導入② 訪問看護の導入③ 点滴棒のレンタルが必要です。これらのサービスの導入は、輸血を行っている病院の相談員や担当のケアマネージャーが協力しながら調整しています。

3-1. 訪問診療の導入

まずは家で輸血をしてくれる訪問診療のクリニックを見つける必要があります。輸血は医師の指示のもと行われる治療です。

まずは、自宅で輸血をしてくれる訪問診療のクリニックを見つける必要があります。

輸血は、医師の指示のもと行われる治療です。定期的に採血を行い、血液検査の結果をもとに輸血の間隔を調整したり、輸血の効果を確認する必要があります。また、輸血による副作用が起きた時は治療が必要となる場合もあります。

3-2. 訪問看護の導入

輸血は1回につき1〜1.5時間ほどかかります。その間、看護師さんに体調の変化がないか見守ってもらう必要があります。

訪問看護とは、看護師が自宅に訪問して、その方の病気や障がいに応じた看護を行うサービスです。在宅輸血にかかる所要時間は、1回につき1〜2時間程度です。輸血の最中は、看護師さんに体調の変化がないか見守ってもらう必要があります。中にはご家族が付き添い体調の変化を確認してもらうケースもありますが、基本的には医療者である看護師の方が安全でしょう。

3-3. 点滴棒のレンタル

輸血をするためには、血液製剤を吊るしておく点滴棒が必要です。必須ではありませんが、用意しておいたほうが快適に輸血ができます。介護保険でレンタルすることが可能です。

4. 在宅輸血前の確認事項

さあ、在宅輸血ができる環境が整いました。次に、自宅でも安全に輸血ができるように病院と在宅診療のクリニック同士で情報をやり取りをします。

在宅輸血前の確認事項
  • 輸血、在宅輸血の同意書
    • 輸血の必要性や副作用、在宅での対応などを説明します。
  • 血液型
    • ABO型とRh型を確認し、患者さんに合う血液製剤を把握します。
  • 不規則抗体
    • これまでの輸血や妊娠によって、不規則抗体がないかを確認します。
  • 輸血の副作用
    • これまでの輸血でどんな副作用が出たかを確認します。
    • 発熱やアレルギー反応を繰り返しているなら、予防的に薬剤を投与した方が良いでしょう。

Rh型

  • Rh型は血液型の一種で、日本人のほとんど(約99.5%)がRh+(プラス)です。
  • Rhー(マイナス)の場合は、輸血製剤を選ぶ際に注意が必要です。

不規則抗体

  • 不規則抗体とは、過去の輸血や妊娠などによって他の人の血液が体内に入った時に、その血液に対して作られる抗体のことです。
  • 不規則抗体を持つ状態で、対応する抗原を持つ赤血球を輸血すると、溶血を起こすことがあります。

5. 在宅輸血の流れ

これで在宅輸血の準備が整いました。次は、在宅輸血の流れを、①輸血前、②輸血当日、③輸血後に分けて解説します。

5-1. 輸血前

輸血前に確認する項目は、以下の通りです。

  • 血液検査
    • ヘモグロビン値や血小板数を確認し、輸血の必要性を確認
  • 交差適合試験(赤血球輸血のみ)
    • 交差適合試験とは、血液製剤と患者さんの相性をみる検査です。輸血の前に試験管の中で血液製剤と患者さんの血液を混ぜ合わせ、溶血反応がないかを確かめます。
    • 血液型不適合による溶血性の副作用を未然に防ぐ重要な検査です。
    • クリニックでは検査結果は翌日にわかるため、輸血前日まで確認します。

5-2. 輸血当日

事前に確認した交差適合試験で輸血製剤と患者さんの血液が適合していれば、輸血が可能です。血小板輸血では、交差適合試験は不要です。

実際の赤血球輸血の在宅輸血の流れは、以下のとおりです。

9:10
クリニックに保管している輸血製剤をダブルチェック
9:15
交差適合試験の結果で「適合」を確認
クリニックを出発
交差適合試験の結果を確認
9:30
患者さんの自宅に訪問診療医が到着
輸血製剤の最終ダブルチェック、バイタル測定
9:40
静脈路の確保
9:45
輸血開始(60 ml/hr)
10:00
体調に問題なければ投与速度UP(200~300 ml/hr)
10:05
訪問看護師が自宅に到着
以後は訪問看護師の見守り
バイタル測定はどのくらいするの?

バイタル測定は体温、血圧、脈拍、SpO2の項目を確認します。

輸血開始前、開始後5分後、開始後15分後、終了時、状態変化時に測ります。その情報は用紙に記入していきます。

現場のナースの声

訪問看護師さんは病院での輸血の経験はあっても、在宅での輸血の経験は多くありません。なぜなら、血液の病気の患者さんの数は少なく、その中で在宅輸血を選択される方はさらに少ないからです。

初めて在宅輸血を経験した訪問看護師さんからは、次のような意見を伺っています。

輸血の副作用対応が心配でしたが、これまで何も起きていません。
意外と副作用って多くないんですね

副作用が起きた時に、いつでも訪問診療の先生と連絡が取れるので安心です。一回慣れてしまえば、あまり抵抗はないです。

5-3. 輸血後

輸血の副作用は輸血後に起こることがあります。輸血後も数時間(可能であれば翌日)まではご家族に体調を観察してもらい、体調の変化があればすぐに連絡してもらうように伝えています。

6. 在宅輸血の副作用対策

輸血による副作用は、発熱や蕁麻疹など軽症のものからアナフィラキシーや溶血反応など命にかかわる重篤なものまで多岐にわたります。

輸血中や直後に起こる即時型(そくじがた)と輸血後に遅れて起こる遅延型(ちえんがた)に分けられます。

輸血の副作用
  • 即時型(輸血中、輸血直後に起こる)
    • 溶血
    • アレルギー反応
    • 発熱
    • 呼吸困難、血圧の変動
    • 細菌感染
  • 遅延型(輸血後に起こる)
    • 溶血
    • ウイルス感染症
    • 輸血後鉄過剰症

2019年の輸血副作用の調査では、バッグ当たりの輸血副作用の発生率は赤血球製剤 0.48%、血小板製剤 1.79%、血漿製剤 0.86%でした。血小板製剤は血漿成分が含まれるためアレルギー反応の頻度が多いことが知られています。

輸血の副作用対策は、①予防 ②治療に分けられます。

6-1. 副作用の予防

これまでに輸血で副作用を起こしたことがある場合は、輸血前に薬剤を投与し副作用を予防します。

血小板輸血は赤血球輸血よりアレルギー反応を起こすことが多いので、抗アレルギー薬を予防的に使うことが一般的です。

  • アレルギー反応(かゆみや蕁麻疹) … 抗アレルギー薬(ポララミン®︎)
  • 発熱 … アセトアミノフェン(カロナール®︎)

6-2. 副作用の治療

もし、輸血による副作用が出現した場合は、自宅で治療を行います。事前に自宅に治療薬を置いておき、すぐに対応できるように準備をします。

重い副作用を認めた際は、これまで輸血していた病院で受け入れてもらえるように事前に連携を取っておくことが重要です。

輸血の副作用対策の治療薬を自宅に置かせていただいています。
輸血の副作用対策バッグ
輸血の副作用対策の治療薬を自宅に置かせていただいています。
アドレナリンなどの薬剤

① 副作用の基本的な対応

輸血の副作用の基本的な対応
  • 副作用を認めた際は輸血を一時中断し、バイタルを測定
  • 副作用の程度によって輸血を中止するか判断
    • 軽症の場合 … 30分後に症状が改善していれば輸血を再開、改善がなければ輸血を中止
    • 重症の場合 … 輸血を中止 

② 症状別の対応

  • 発熱
    • ステロイド(ソルコーテフ®︎ 100mg)を投与 
  • 皮膚や粘膜の症状(かゆみ、蕁麻疹、粘膜の腫れ)
    • 軽症(部分的) … 抗アレルギー薬(ガスター®︎ 20mgとポララミン®︎ 5mg)を投与
    • 重症(全体的) … ステロイド(ソルコーテフ®︎ 100mg)を投与
  • 呼吸の症状
    • 軽症(咳嗽、くしゃみ、鼻汁) … 抗アレルギー薬(ガスター®︎ 20mgとポララミン®︎ 5mg)を投与
    • 重症(呼吸困難感、喘鳴) … ステロイド(ソルコーテフ®︎ 100mg)を投与
  • お腹の症状
    • 軽症(咽頭違和感、嘔気、軽い腹痛) … 抗アレルギー薬(ガスター®︎ 20mgとポララミン®︎ 5mg)を投与
    • 重症(咽頭痛、頻回の嘔吐、強い腹痛) … ステロイド(ソルコーテフ®︎ 100mg)を投与
  • 心臓の症状
    • 軽度の血圧低下、頻脈 … ステロイド(ソルコーテフ®︎ 100mg)を投与
  • アナフィラキシー
    • アナフィラキシーとは、アレルギー反応でも特に重篤な状態を指します。
    • 皮膚や粘膜の症状、呼吸の症状、お腹の症状、心臓の症状の2つ以上のアレルギー症状を認めた場合はアナフィラキシーの可能性が高いため、緊急での処置が必要です。
    • アドレナリン(エピペン® or ボスミン® 0.3mg 大腿部外側筋注)を投与し、同時に救急車を要請し、病院で治療を行います。

引用:東京都福祉保健局 小規模医療機関における輸血マニュアル


最後まで読んでいただきありがとうございました!血液についても解説しているので別の記事も参考にしていただけると幸いです。お疲れ様でした。

つか
医師・医学博士。
専門はリウマチ膠原病内科と血液内科です。
これまで大学病院や訪問診療で、関節リウマチと血液疾患の患者さんの診断・治療・自宅療養のサポートをして参りました。
リウマチと血液疾患で悩む患者さんに、笑顔と安心を届けることが私の使命と考えています。
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