【本態性血小板血症】血液専門医が診断と治療、日常生活で気をつけるポイントをわかりやすく解説

本態性血小板血症は主に血小板が増え続ける病気で、血栓症や出血を起こすことがあります。初期は自覚症状がないが、病状が進むと頭痛や視野障害などの症状を認めます。 診断は血液検査での血小板の増加とJAK2などの遺伝子の変異、骨髄検査で行います。治療は血栓のリスクによって、抗血小板薬や細胞減少療法を組み合わせます。

先日、血液内科で本態性血小板血症と診断されました。
初めて聞いた病気だから、びっくりしています。

そうですよね。
定期的に病院に通って治療を続ければ、いつも通りの生活が送れますよ。

この記事を読めば、本態性血小板血症の診断と治療、病気とうまく付き合っていく上で気をつけるポイントが分かると思います。

この記事のまとめ
  • 本態性血小板血症は主に血小板が増え続ける病気で、血栓症や出血を起こすことがあります。
  • 初期は自覚症状がないが、病状が進むと頭痛や視野障害などの症状を認めます。
  • 診断は血液検査での血小板増加とJAK2などの遺伝子の変異、骨髄検査で行います。
  • 治療は血栓症のリスクによって、抗血小板薬や細胞減少療法を組み合わせます。
目次

1. 本態性血小板血症ってどんな病気?

骨髄増殖性腫瘍とは血球の赤ちゃんである造血幹細胞の遺伝子に異常が起こり、血球がどんどん作られる病気です。骨髄増殖性腫瘍には慢性骨髄性白血病、真性多血症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症があります。特に本態性血小板血症は著しく血小板が増えるので血栓症や出血に注意が必要です。
引用元:がんと希少な病気の情報サイト

血球の赤ちゃんである造血幹細胞の遺伝子に異常がおこり、血球がどんどん作られる病気を骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)といいます。本態性血小板血症(Essential Thrombocythemia : ET)はMPNのひとつで、主に血小板が増え続ける病気です。

本態性血小板血症には以下の特徴があります。

本態性血小板血症の特徴
  • まれな病気
    • 100万に数人の割合で発症する
  • やや女性に多い
  • 診断時の平均年齢は60 歳代
    • 妊娠可能な年齢(30歳前後)の女性にも発症しやすい
  • 予後は比較的良好
    • 血栓症や出血を起こすことがある
    • 長い経過で骨髄線維症(4〜9%)や急性骨髄性白血病(1%)に移行することがある

2. 本態性血小板血症の症状は?

本態性血小板血症の多くは自覚症状がなく、健康診断や他の病気の検査中に偶然に発見されるとがほとんどです。血小板の数が著しく増えると、以下の症状を認めます。

また、血小板が増えると血栓ができやすくなります。一方で、血小板が100~150 万/μlを超えてくると血栓に加え出血もしやすくなります。中には、血栓症や出血をきっかけに本態性血小板血症と診断されることもあります。

本態性血小板血症の主な症状
  • 頭痛
  • 視力が低下する、目がチカチカする
  • 手足の色が悪くなる(網状皮斑:もうじょうひはん)
  • しびれやめまい
  • 肝腫大や脾腫によるお腹の張りや食欲低下
  • 血栓症
    • 脳梗塞、心筋梗塞など
  • 出血
    • 皮膚にあざができやすい
    • 鼻や歯肉などの粘膜からの出血

3. 本態性血小板血症の原因は?

本態性血小板血症では、約90%の患者さんに何らかの遺伝子変異が認められます。そのため、遺伝子の異常が発症に関わっていると考えられています。

異常が認められる遺伝子は、患者さんによって異なります。

本態性血小板血症で異常が認められる遺伝子
  • JAK2遺伝子 … 約 50%
  • CALR遺伝子 … 約 20~30%
  • MPL遺伝子 … 約 1~3%
JAK2遺伝子とは
引用元:https://www.gan-kisho.novartis.co.jp/mpn-info/polycythemia-vera
  • JAK2遺伝子には、血液細胞の増殖や分化を調節する働きがあります。
  • JAK2遺伝子に異常がおこると、血液細胞を増やすスイッチが入りっぱなしになります。
  • 本態性血小板血症では、約50%の患者さんにJAK2V617Fという特徴的な遺伝子の異常がみられます。JAK2遺伝子の異常は血液検査で確認し、1週間ほどで結果がでます。

本態性血小板血症は遺伝するの?

遺伝子の異常と聞くと子供に影響がないか、心配になりますよね。本態性血小板血症は遺伝性の病気ではないので、子供には遺伝しません

4. 本態性血小板血症の診断

本態性血小板血症の診断基準(2016年WHO)
  • Major criteria
    1. 血小板>45 万/μL
    2. 骨髄検査で巨核球の増加
    3. 慢性骨髄性白血病、真性多血症、骨髄異形成症候群などの他の病気ではない
    4. JAK2、CALR、MPLのいずれかの遺伝子異常
  • Minor Criteria
    • 染色体の異常を認める
    • 反応性の血小板増加でない
      • 反応性の血小板増加 … 出血や鉄欠乏性貧血、慢性の炎症など

Major criteria 4つ、もしくはMajor criteriaの1、2、3Minor Criteriaで診断

本態性血小板血症は、血液検査と骨髄検査で診断します。

参考所見としては、血球がどんどん作られることを反映して、LDHや尿酸の上昇がみられます。

また、血液検査の過程で多量の血小板からカリウムが流出されるため、カリウムの上昇(偽性高カリウム血症)を認めます。実際のカラダの中のカリウム値は正常なので心配はいりません。

骨髄検査とは?

引用元:https://www.gan-kisho.novartis.co.jp/mpn-info
  • 骨髄検査とは、腰の骨に針を刺し骨の中にある骨髄をとる検査です。
  • 骨髄検査には、骨髄穿刺(せんし)と骨髄生検(せいけん)の2種類があります。
    • 骨髄穿刺 … 骨髄の中の液体(骨髄液)をとる検査です。細胞の数や形、遺伝子検査や染色体検査などを行います。
    • 骨髄生検 … 骨髄そのもの(骨髄組織)をとる検査です。骨髄をそのままの状態で観察できるので、細胞の密度や線維化などがわかります。
  • 検査の際は局所麻酔で痛みを和らげますが、骨髄液を抜き取るときに特有の痛みがあります。
  • 検査時間は10~20分程で終わり、検査後に30分間仰向けで安静にします。穿刺部位の血が止まったのを確認できれば、帰宅できます。
  • 検査後は出血しやすいので、運動や入浴、アルコール摂取は控えましょう

4. 本態性血小板血症の治療(リスク分類)

本態性血小板血症の治療の目的は、心筋梗塞や脳梗塞といった血栓症や出血を予防することです。

血栓症の発症しやすさ(リスク)は、年齢や遺伝子異常の有無で患者さんごとに異なります。まずは、血栓症のリスクを評価し、それに基づいて血小板などの血球の量を薬剤でコントロールします。

本態性血小板血症を完治させる治療法は今のところありませんが、継続した治療により発症前と同じ生活を送ることができます。血栓症や出血を予防し、前向きに人生を歩めるよう、私たち血液内科医がサポートさせていただきます。

本態性血小板血症の血球数の目標
引用元:https://www.gan-kisho.novartis.co.jp/mpn-info/polycythemia-vera/treat
  • ヘマトクリット < 45%
  • 白血球数 < 1万 /μl
  • 血小板数 < 40万 /μl

血栓症のリスクは低リスク中間リスク高リスクに分類されます。

スクロールできます
年齢血栓症の既往JAK2遺伝子変異
低リスク< 60歳なし
中間リスク≧ 60歳なしなし
高リスク≧ 60歳あり
あり
血栓症のリスク分類

4-1. 低リスク

  • 年齢<60歳
  • 血栓症の既往なし

年齢が若く、血栓症を発症したことがなければ、基本的には治療は必要ありません

ただし、心血管のリスクファクター(喫煙、高血圧、脂質異常症、糖尿病)や本態性血小板血症の症状がある場合は、血栓症予防のために抗血小板薬の内服を考えます。

4-2. 中間リスク

  • 年齢 ≧ 60歳
  • 血栓症の既往なし
  • JAK2遺伝子変異なし

年齢が60歳以上で、血栓症を発症したことがなく、JAK2遺伝子変異もなければ、血栓症予防のために抗血小板薬の内服のみ行います。

ただし、心血管のリスクファクター(喫煙、高血圧、脂質異常症、糖尿病)や本態性血小板血症の症状がある場合は、血小板を減らす薬の内服(細胞減少療法)を考えます。

4-3. 高リスク

  • 年齢 ≧ 60歳
  • 血栓症の既往もしくはJAK2遺伝子の変異

年齢が60歳以上で、血栓症を発症したことがあるもしくはJAK2遺伝子変異を認めれば、血栓症を発症するリスクが高いため、血栓症予防のために抗血小板薬と血小板数を減らす薬の内服(細胞減少療法)を行います。

5. 本態性血小板血症の治療薬

本態性血小板血症で使われる治療は、抗血小板薬細胞減少療法に分けられます。

5-1. 抗血小板薬

抗血小板薬は、血をサラサラにして血栓症を予防します。様々な抗血小板薬がありますが、よく使われるのはバイアスピリン®︎(アスピリン)です。

バイアスピリン®︎(アスピリン)
  • 作用 … 血小板の凝集をおさえ、血液が凝固して血管をつまらせるのを防ぐ
  • 内服方法 … 1日1回1錠、食後
  • 副作用 … 胃腸障害、皮疹、頭痛、出血、肝障害、消化性潰瘍
    • 消化性潰瘍の予防に胃薬(プロトンポンプ阻害薬、H2-blockerなど)を併用

5-2. 細胞減少療法

細胞減少療法とは、血球(主に血小板)の量を減らす治療のことです。治療に使われる薬はハイドレア®︎(ヒドロキシウレア)とアグリリン®︎(アナグレリド)です。

ハイドレア®︎とアグリリン®︎ともに胎児に影響がでるので妊婦さんには使えません。妊婦さんに細胞減少療法を行う場合は、スミフェロン®︎(インターフェロンα)が使われます(保険適応外)。

ハイドレア®︎(ヒドロキシウレア)
  • 作用 … 細胞のDNAの合成を阻害することで血球の増殖を抑え、血小板、赤血球、白血球の数を減らす
  • 内服方法 … 1回500mgを1~2錠、1日1~2回、食後
  • 副作用 … 発疹、吐き気、嘔吐、骨髄抑制、間質性肺炎、皮膚潰瘍
    • 副作用が出た場合は減量したり、一時的に中止します。
  • 薬価 … 500mg錠 186円

参考:ハイドレアカプセルを服用される患者さまへ

アグリリン®︎(アナグレリド)
引用元:https://www.takedamed.com/medicine/agrylin/product/action/
  • 作用 … 血小板を作る巨核球という細胞だけに作用することで、血小板の数を減らす
  • 内服方法 … 1回0.5mgを1日2回から開始。血小板数を確認しながら、1週間以上の間隔をあけて1錠づつ増量。1日4回を超えない範囲で分割。ただし、1回用量として2.5mgかつ1日用量として10mgを超えないこと。
  • 副作用 … 貧血、頭痛、動悸、下痢、むくみ、不整脈、出血、血栓症、間質性肺炎
    • 軽い副作用なら、症状を和らげる薬を併用しながら様子を見る。アグリリンの副作用は開始3ヶ月以内にみられることが多く、その後カラダが徐々になれてくることがあります。
    • 重い副作用の場合は休薬
  • 薬価 … 0.5mg 1カプセル 788円

参考:アグリリンを服用される患者さまへ

スミフェロン®︎(インターフェロンα)
  • 作用 … 免疫力を高め細胞の増殖をおさえることで、血小板を減らす
  • 用法 … 1日1回1~2シリンジ(主成分として300万~600万IU)を皮下又は筋肉内に注射
  • 副作用 … 発熱、全身倦怠感、食欲不振、頭痛などのインフルエンザ様の症状や脱毛、重い副作用に間質性肺炎、うつ、糖尿病、自己免疫疾患、肝障害
    • 重い副作用の場合は休薬

血小板>100万 /μl の時は出血に要注意!

引用元:https://genetics.qlife.jp/diseases/von-willebrand
  • 本態性血小板血症では、血小板が100万 /μlを超えてくると血栓症を起こしやすくなるだけでなく出血しやすくなります。
  • 出血しやすくなる原因の一つは、増加した血小板に「フォンウィルブランド因子」という止血に必要なタンパク質がくっつき、フォンウィルブランド因子がうまく機能しなくなるからです。これを、後天性フォンウィルブランド症候群と呼びます。
  • 血小板が100万 /μlを超えている場合は、血液検査でフォンウィルブランド因子活性を確認します。フォンウィルブランド因子活性<20 %の場合では、アスピリン®︎などの抗血小板薬の投与は出血を増悪させるので、細胞減少療法を優先します。

5. 日常生活で気をつけること

本態性血小板血症では、血栓症や出血などの合併症をおこさないことがとても重要です。日常生活を送る上で、心がけて頂きたいことがあります。下記の点に気をつけ、病気と前向きに付き合っていけると良いですね。

  • こまめに水分を摂取しましょう。
    • 夏の暑い時期は汗をかいて脱水になりやすいです。
    • 特にご高齢の方は飲水が不足しがちです。
  • タバコはやめましょう
    • 喫煙は、血栓のリスクを4倍高くすると報告されています。
  • 適度な運動とバランスのいい食事を心がけましょう。
    • 高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満などの生活習慣の見直しを行いましょう。
  • 閉経後のホルモン補充療法は避けましょう。
    • 深部静脈血栓のリスクが高くなると報告されています。
  • 飛行機に乗るときは、機内で足を定期的に動かしましょう
    • エコノミークラス症候群に注意が必要です。
  • 抜歯や手術が必要な時は、主治医の先生に事前に相談しましょう。
  • 症状がなくても定期的に血液内科に通院し、内服薬を飲みましょう
  • 血栓症を疑う症状が出た際は、すぐに病院を受診しましょう。
    • 脳梗塞 … 手足が動かしづらい、呂律が回らない、口角が下がる
    • 心筋梗塞 … 胸が締め付けられるような痛み
    • 下肢静脈血栓 … 片方の足のむくみと痛み

最後まで読んでいただきありがとうございました!リウマチや血液の病気などの別の記事も参考にしていただけると幸いです。お疲れ様でした。

つか
医師・医学博士。
専門はリウマチ膠原病内科と血液内科です。
これまで大学病院や訪問診療で、関節リウマチと血液疾患の患者さんの診断・治療・自宅療養のサポートをして参りました。
リウマチと血液疾患で悩む患者さんに、笑顔と安心を届けることが私の使命と考えています。
目次