家族の血液をそのまま使っても大丈夫?血液型が一致していても危険な理由とは
在宅で輸血している患者さんのご家族より「夫と血液型が一緒なんです。私の血を使って下さい」と言われることがあります。
「家族の血液型が同じだから、そのまま輸血に使えるのでは?」と思われるかもしれません。家族の血液ならば、なによりも安心だと感じるのは当然ですよね。しかし、実際には、家族間であってもそのままの血液を輸血することは非常にリスクが高いので、日本では行われていません。
血液型が一致していても、安全に輸血を行うためには、専門機関でのしっかりとした処理が欠かせないのです。
この記事では、なぜ家族間でもそのまま輸血を行えないのか、その背景や理由について、日本赤十字社の取り組みも含めてわかりやすく解説します。
患者さんやそのご家族が安心できるように、安全な輸血について少しでも理解を深めていただければ幸いです。
1. 家族間輸血が危険である主な理由
家族間で血液型が一致していても、そのままの血液を輸血することにはいくつかのリスクが伴います。以下にその理由をひとつずつご説明していきます。
細菌やウイルスなどの感染リスク
私たちの血液には、赤血球や白血球、血小板などの血液成分のほかに、体内に潜んでいる細菌やウイルスといった病原体が含まれていることがあります。通常は無症状で存在していても、輸血を通して新しい体に入ったあとに、体に影響を及ぼしてしまう恐れがあるのです。
日本赤十字社では、輸血に使用する血液に対して、HIVや肝炎ウイルス、HTLV-1(成人T細胞白血病ウイルス)などのウイルス検査を徹底的に行い、安全な状態で患者さんに届けられるよう努めています。家族間輸血でも、こうしたウイルス検査がないままでは感染のリスクが残るため、このプロセスがいかに重要かがわかります。
発熱などの免疫反応
家族であっても、お互いの体質や免疫の仕組みには違いがあります。特に、白血球の抗原である「HLA(ヒト白血球抗原)」の型が異なる場合、他者の白血球が「異物」として認識され、免疫系が攻撃を始めることがあるのです。この拒絶反応が起こると、発熱や血圧低下、呼吸困難といった重篤な症状が現れることがあり、輸血が必要な患者さんの体にさらに負担がかかってしまいます。
そのため、家族間輸血であっても、こうした免疫反応を引き起こさないように白血球を事前に除去する必要があります。
血液凝固と血栓形成のリスク
採取した血液は、時間が経過すると凝固しやすく、血小板が集まって血栓(血の塊)を作りやすくなります。こうした血栓ができた血液を輸血してしまうと、血管が詰まってしまうリスクが高く、血流が遮断されて深刻な健康被害を引き起こすことがあるのです。
日本赤十字社では、輸血用の血液に抗凝固剤を加えて血栓のリスクを抑え、安全に使用できるようにしています。
2. 日本赤十字社の輸血体制と管理
日本赤十字社は、国内で必要とされる血液製剤を安全に供給するための中心的な役割を担っており、全国の患者さんが安心して輸血を受けられるよう、万全の体制で取り組んでいます。以下に、日本赤十字社が行っている輸血体制についてご紹介します。
献血による血液の収集と管理
日本赤十字社は、全国に献血ルームや移動献血バスを設置し、献血者の皆さんの協力のもとで血液を集めています。この収集された血液は、ただ保存されるだけでなく、輸血に適した形に加工され、全国の医療現場で患者さんの治療に使われています。
献血には全血(赤血球や血小板、血漿を含むもの)や成分献血(血小板のみ、または血漿のみ)などがあり、患者さんのニーズに応じて治療に役立てられています。
血液成分ごとの分離と処理
日本赤十字社は献血された血液をそのまま輸血するのではなく、赤血球、血小板、血漿などの成分ごとに分離する処理を行っています。
これにより、貧血の患者さんには赤血球製剤が、血小板が少ない患者さんには血小板製剤が使用されるなど、患者さんそれぞれの治療に合わせた血液の提供が可能になります。
ウイルス検査と感染症対策
輸血用血液には、HIV、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、HTLV-1といった感染症のリスクを抑えるためのウイルス検査が徹底されています。
この検査により、感染リスクが疑われる血液は輸血用には用いられず廃棄されます。患者さんが安心して治療を受けられるよう、日本赤十字社では高精度な検査体制が整えられています。
白血球除去処理による副作用の軽減
輸血後の副作用のひとつとして、他者の白血球に対する免疫反応が挙げられます。
日本赤十字社では、輸血用血液から白血球を取り除く「白血球除去処理」を行い、免疫反応や副作用を少なくする努力がなされています。
抗凝固剤の添加による血栓リスクの低減
採取した血液は固まりやすく、そのまま使用すると血栓ができやすくなります。そのため、日本赤十字社では、血液に抗凝固剤を加え、血管内で血液が固まらないようにしています。
この抗凝固処理によって、血栓ができるリスクを避け、輸血による健康リスクを減らしているのです。
血液製剤の流通と保管体制
日本赤十字社は、輸血が必要な患者さんにすぐに血液を届けられるよう、全国の輸血センターや血液センターを通じて、医療機関に血液製剤を迅速に供給しています。
血液製剤は冷蔵や冷凍など厳密な温度管理のもとで保管され、医療現場に届けられるまでその品質が守られています。
3. 安全な輸血を支えるために献血の重要性
こうして日本赤十字社が管理する血液製剤の供給体制を支えているのが、日々献血に協力してくださる皆さんの存在です。皆さんの献血が、毎日多くの患者さんの命を支えていることをご存知でしょうか。
日本では、がん治療中で血小板が不足している患者さんや、大きな手術で大量の血液が必要になる患者さんなど、日々多くの方々が輸血治療を必要としています。献血は、患者さんが安心して治療を受けられるための欠かせない力となっているのです。
4. 献血を始める第一歩
献血は、誰でも手軽に始められる社会貢献のひとつです。献血ルームや移動献血バスで行うことができ、事前予約も可能なのでスムーズに進みます。また、献血ルームでは採血前の健康チェックや献血後のフォローが整っており、安心して献血ができる環境です。
献血には「全血献血」と「成分献血(血小板や血漿の提供)」があり、どちらも輸血を必要とする患者さんにとって大切な血液成分です。初めての方でもリラックスして臨めるよう、献血ルームでは安心して過ごせる環境が整っています。
5. まとめ
たとえ家族であっても、血液型が一致しているだけでは家族間輸血の安全は保証されません。家族の血液であっても、免疫反応や感染症のリスクがあるため、日本赤十字社でしっかりとした処理が行われた血液製剤の使用が推奨されているのです。
そして、この安全な輸血治療を支えているのが、皆さんの献血です。皆さんの献血協力が、輸血を必要とする患者さんの命を支える力となり、医療を支える大切な力です。
命をつなぐ献血は、医療を支える大きな貢献です。どうぞ献血について考えていただき、ぜひご協力をお願いします。
コメント