はじめに:リウマチ患者さんとコロナワクチン
2024年10月からコロナウイルスワクチンの自治体による定期接種が開始されました。


対象は65歳以上の方、もしくは60歳~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方とされています。
訪問診療でお伺いするリウマチの高齢の患者さんから「コロナワクチンの手紙が届きました。接種した方が良いですか?」とよく質問されます。
関節リウマチ(RA)は、体の免疫システムが自己組織(関節の滑膜)を攻撃してしまう自己免疫疾患で、症状が慢性的に進行するため、日常生活に影響を及ぼすことが多い病気です。
特にRAの治療には、免疫システムの活動を抑える薬(免疫抑制薬)が使用されることが多く、このような薬を服用している患者さんは感染症へのリスクが高まる傾向があります。
コロナウイルス感染症は、免疫抑制状態にある方にとって重症化しやすく、感染すると症状が長引いたり、合併症を引き起こす可能性もあります。
そのため、RA患者さんにはコロナワクチン接種が推奨されています。
本記事では、関節リウマチ患者さんが安心してワクチン接種を受けられるよう、ワクチンの安全性や注意点について詳しく解説し、接種に向けた準備の参考にしていただきます。
1. リウマチ患者さんはコロナワクチンを受けるべき?
結論から言うと、【リウマチ患者さんはコロナワクチンを受けるべき】です。特に、免疫抑制薬を使用している場合、感染予防としてのワクチンの効果は非常に重要です。
まず、関節リウマチ患者さんにコロナワクチン接種が推奨される理由について詳しく見ていきましょう。
一般的に、関節リウマチの患者さんは健常者と比較して免疫が低下していることが多く、免疫を抑える治療を受けている場合、さらに感染症にかかりやすい状況になっています。
特にコロナウイルス感染症は、基礎疾患を持つ患者さんに重症化リスクが高いため、リスクを最小限に抑えるためにもワクチン接種が重要とされています。
日本のリウマチ学会は、リウマチ性疾患でステロイドをプレドニン換算で5mg/日以上、免疫抑制剤、生物学的製剤、JAK阻害薬のいすれかを使用中の方は、新型コロナワクチン接種が推奨されています。
コロナワクチンの予防効果
ワクチンは感染そのものを完全に防ぐものではありませんが、感染した場合の重症化リスクを大幅に低減する効果が期待できます。
コロナワクチンは免疫系に刺激を与え、体内にウイルスに対する抗体を作り出すため、もし感染したとしても症状が軽度で済む可能性が高まります。
特に注意が必要な方
・高齢の患者さん:高齢のRA患者さんはコロナ感染に伴う重症化リスクがさらに高いため、ワクチン接種の恩恵を特に受けやすいと言えます。
・併存疾患を持つ患者さん:糖尿病や心疾患、呼吸器疾患など、他の持病がある場合も同様にリスクが高まるため、接種を検討する価値が高いでしょう。
2. ワクチン接種でリウマチが悪化しないか?
多くのRA患者さんが抱く不安として、ワクチンが病気の活動性を高め、リウマチ症状が悪化してしまうのではないかという懸念があります。
しかし、現在の研究や臨床データによると、コロナワクチンが直接的に関節リウマチの活動性を著しく悪化させる事例はほとんど見られていません。
接種後に起こり得る副反応
接種後の一般的な反応として、注射部位の痛み、軽度の発熱、倦怠感、そして一時的な関節痛が報告されていますが、これらは数日で収まり、多くの患者さんにとって重大な影響はありません。
また、ワクチンがリウマチの活動性に与える影響については、今後もデータの蓄積が進むことが期待されています。
ワクチンによる免疫の反応
ワクチン接種は、免疫系を一時的に活性化させるため、体内で軽い炎症反応が起こることがあります。この反応は一般的なもので、体が感染から守る準備を整えるための正常な反応です。
RA患者さんにとっても、この一時的な炎症は通常、体内で問題を引き起こすことは少なく、重度の副反応が続く場合は早めに医師に相談することが推奨されます。
3. コロナワクチンと免疫抑制薬の併用は大丈夫?
RA患者さんがワクチン接種を検討する際には、免疫抑制薬との併用して良いのかと心配される方がいらっしゃいます。
免疫抑制薬(例:メトトレキサート、TNF阻害薬、IL-6阻害薬など)は、体の免疫反応を抑える薬であり、これによりワクチンの効果が多少弱まる可能性があります。
しかし、ワクチンの効果が全くなくなるわけではなく、感染リスクの軽減は期待できます。
薬のタイミングと調整
免疫抑制薬とワクチンの効果を最大限に活用するために、接種前後に薬を一時的に休止することが有効とされる場合があります。
例えば、メトトレキサートは接種後の効果を高めるために1~2週間程度の休薬が推奨されることもありますが、これはあくまで個別の状況に応じた対応が必要です。
リウマチの病状が安定している場合には、ワクチン接種時から1~2週間の免疫抑制薬の休薬を試しても良いといわれております。
担当医と薬の服用スケジュールや休薬の可能性について相談しましょう。
各薬剤のコロナウイルスワクチンのポイント | |
---|---|
プレドニゾロン | 休薬不要 (ただし、抗体がしっかりと作られるにはPSL<10mg/日がよい) |
メトトレキサート | 休薬不要 |
タクロリムス シクロスポリン | 休薬不要 |
生物学的製剤 | 休薬不要 |
JAK阻害薬 | 休薬不要 |
4. ワクチン接種前に医師と相談すべき点
リウマチ患者さんがワクチン接種を受ける際には、事前に主治医と相談して個別のリスクや治療の状況を考慮することが重要です。病状の状態によって接種の時期やスケジュールを工夫することで、より安全に接種を行うことができます。
相談時のポイント
・現在の病状について:リウマチの症状が強く活動性が高い場合、接種を延期した方が安全かもしれません。症状が落ち着き次第、接種を検討すると良いでしょう。
・使用中の薬の種類:特定の薬によっては、接種後の免疫反応が異なることもあるため、かかりつけのリウマチ科の医師と相談しましょう。
・副反応への対応:過去にワクチンや薬で副作用が出た経験がある方は、その症状と対応策について医師と話し合い、万が一の場合に備えておくと安心です。
5. コロナワクチンを避けた方が良い場合
コロナワクチンが安全であるとはいえ、全ての患者さんに適応するわけではありません。以下のようなケースでは、接種を慎重に検討する必要があります。
ワクチン成分に対するアレルギー
コロナワクチンの成分に対して過敏反応がある方や、アナフィラキシー反応の既往がある方は、接種が推奨されない場合もあります。
この場合、アレルギーの内容とワクチンの成分を照らし合わせ、手洗い、うがいやマスクの徹底、同居する家族のワクチン接種などを検討します。
副作用歴や過去の接種後の反応
過去に他のワクチンや薬で重篤な副作用が現れた場合も、医師と相談しながら慎重に検討しましょう。
また、特定の疾患を併発している場合には、接種が困難なこともあるため、代替策についても話し合うことが大切です。
まとめ
関節リウマチの患者さんにとって、コロナワクチンは重要な感染予防手段の一つです。
コロナウイルス感染症は基礎疾患を持つ患者さんに重症化しやすく、ワクチン接種によってリスクを低減することができます。特に免疫抑制療法を受けている患者さんには大きな予防効果が期待され、健康維持にもつながります。
安全にワクチン接種を行うためには、主治医とよく相談し、最適なタイミングと対策を確認しておきましょう。
薬の服用やワクチン接種後の体調管理に注意しながら、安心して接種を進め、日常生活をより安全に送れるように準備を整えましょう。
コメント