はじめに:血液疾患の患者さんとコロナワクチン
2024年10月からコロナウイルスワクチンの自治体による定期接種が開始されました。


対象は65歳以上の方、もしくは60歳~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方とされています。
血液疾患を抱える患者さんにとって、コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は一般の方よりも大きく、特に免疫力が低下している場合には感染リスクや重症化の危険性が増します。血液疾患自体による免疫力の低下や化学療法やステロイドなどの免疫抑制療法で免疫反応が十分に働かないことが多いため、ワクチンによる感染予防が大変重要です。
このため、この記事では血液内科専門医の立場から、コロナワクチンが血液疾患患者さんにとってどのように役立つのか、注意点や効果について詳しく解説します。
1. 血液疾患の患者さんはワクチンを受けるべき?
結論から言うと、【ワクチン接種は多くの場合推奨】されます。
血液疾患をお持ちの患者さんは、免疫が抑制されていることが多く、感染した場合の重症化のリスクが一般の方より高まるためです。
例えば、白血病や悪性リンパ腫の患者さんは、特定の治療で免疫機能が低下しており、感染が重症化するリスクが高いです。ワクチン接種は、こうした患者さんが感染を予防するだけでなく、感染した際に重症化するのを防ぐための重要な手段です。
医師と相談しながら、現在の病状や治療状況に応じた接種計画を立てると良いでしょう。
2. 血液疾患とコロナワクチンの安全性
コロナワクチンは多くの血液疾患患者さんにとって安全に接種可能です。
ワクチンの成分に対するアレルギーがない限り、通常、接種による副作用は軽度で一時的です。ワクチン接種に伴う一般的な副作用として、接種部位の痛み、軽度の発熱、倦怠感などがみられますが、通常は数日以内に改善します。
特定の血液疾患や治療法を受けている患者さんの場合、治療のタイミングや病状に応じて接種計画が異なることもあるため、必ず医師と相談して適切なタイミングを選びましょう。
3. 免疫抑制状態の患者さんにワクチンは効果があるか?
化学療法や免疫抑制剤を使用している患者さんでは、ワクチン接種後に十分な抗体が形成されにくい可能性があります。
たとえば、抗がん剤治療中の患者さんの場合、体の免疫機能が低下しているため、ワクチンの効果がやや低減することが報告されていますが、それでも接種することで重症化リスクを低減できます。
また、抗体の獲得が不十分な場合には、追加のブースター接種や、抗体検査を用いて効果を確認する場合もあります。
医師と連携して、最適な接種回数や追加接種のタイミングを決めましょう。
4. 特定の血液疾患に対する注意点
血液疾患にはさまざまな種類があり、たとえば白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)などがあります。これらの疾患は、それぞれ異なる治療方法や免疫抑制の度合いを持つため、ワクチン接種においては個別の配慮が求められます。
例えば、造血幹細胞移植後の患者さんの場合、移植後の免疫回復期間により、接種時期を慎重に検討する必要があります。
また、ITPの患者さんの場合、接種後に血小板数の急激な変動があるかどうかを観察することが重要です。
ITPと発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)については、血液学会より以下の注意喚起がなされています。
1. ITP患者のワクチン接種後に見られる血小板減少について
血小板減少性紫斑病(ITP)を持つ患者さんがコロナワクチンを接種した後、一部の患者さんに血小板が急激に減少する症状が報告されています。
これは、免疫反応の一環として起こる可能性があるため、ワクチン接種後には特に注意が必要です。
ある調査では、単一施設でITP患者52名に対してジョンソンアンドジョンソン(J&J)、モデルナ、ファイザーのいずれかのワクチンを接種したところ、6名(12%)が血小板減少を発症しました。その中には、病状が安定し、治療を受けていなかった患者さんも含まれており、血小板の数値は0.1万~1.7万/μLと大幅に低下しました。しかし、これらの患者さんの多くはプレドニゾロン(PSL)という薬剤の反応が良好で、血小板数が回復しています。
血液学会の推奨では、ITP患者さんはワクチン接種の前後に血小板数を定期的に確認し、特に接種後3~7日目を目安にチェックすることが重要とされています。これは、無治療や寛解状態であっても、ワクチンによる免疫刺激が血小板に影響を与える可能性があるためです。
万が一出血症状や異常を感じた場合には、早めに医師へ連絡し、適切な対応を受けることが推奨されます。
2. PNH患者のワクチン接種後に発生する溶血発作について
発作性夜間血色素尿症(PNH)は、赤血球が壊れやすくなる疾患で、ワクチン接種がトリガーとなり溶血発作が起こることが報告されています。
ある研究によると、PNH患者6名にmRNAワクチン(モデルナやファイザー)を接種した結果、3名が接種当日か翌日に溶血発作を起こし、ヘモグロビンの値が2.7~4.1g/dL低下しました。これらの患者さんはラブリツマブという抗体治療を4週間前に受けていたことが共通しており、このような抗体治療の影響で免疫反応が過度に強まった可能性が考えられています。
学会からの指針では、PNH患者がワクチン接種を検討する際、エクリツマブやラブリツマブの投与後の適切な時期に接種することが推奨されています。具体的には、エクリツマブ投与から1週間以内、またはラブリツマブ投与から4週間以内の接種が推奨されています。
抗体治療を受けている患者さんは、ワクチン接種後に異常な疲労感や血尿など溶血発作の兆候がないか、慎重に観察し、何らかの異常があればすぐに医師へ報告してください。
5. コロナワクチンの副反応は?
ワクチン接種により発生しやすい一般的な副反応には、接種部位の腫れや痛み、軽い発熱、倦怠感などがあります。これらは通常1〜2日程度で治まりますが、血液疾患の患者さんは免疫が低下しているため、一般の方よりも副反応が強く出る可能性も考えられます。
接種後に強い発熱や異常を感じた場合、すぐに医療機関に連絡し、適切な対応を受けることが重要です。
また、持病や治療による影響で副反応が出やすい患者さんは、接種後に数日間は安静に過ごし、体調管理に注意を払いましょう。
6. ワクチン接種前に確認すべきこと
血液疾患の患者さんは、ワクチン接種前に必ず主治医と相談することが不可欠です。
特に、治療が進行中の患者さんや、免疫抑制剤を使用中の患者さんは、ワクチン接種が推奨されない時期もあるため、適切なタイミングでの接種が必要です。また、ワクチンの種類によっても接種の計画が異なります。
mRNAワクチンが推奨されるケースも多いため、現在の治療内容や症状に合った種類や接種方法を主治医と共に確認しましょう。事前の血液検査や、接種後の観察も含めて、総合的な健康管理が大切です。
7. まとめ
血液疾患をお持ちの患者さんにとって、コロナワクチンは感染や重症化を防ぐための強力な手段であり、特に免疫抑制状態にある患者さんは接種を検討すべきです。
重症化のリスクを減らすためにワクチン接種は大変重要ですが、治療の進行状況や病状により接種時期や種類の選択が必要です。
主治医とよく相談し、最適なタイミングで接種を進めていくことで、より安全で効果的にコロナウイルス感染症の予防に努めましょう。
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