慢性心不全で在宅療養中の85歳の患者さんの娘様から「日常生活ではどんなことに注意すればよいですか?」とご質問をいただきました。その患者さんの慢性心不全の程度は重く、安静時でも息苦しさを訴えており、NYHA分類ではⅣ度でした。

慢性心不全の方を自宅で介護する際には、いくつかの重要なポイントに注意する必要があります。介護の質を高め、患者さんができるだけ快適に過ごせるようにするためには、食事管理、姿勢、症状管理、精神的サポートが不可欠です。
以下では、具体的なケアの方法と日常生活で気をつけるべき点について詳しく解説します。
1. 食事管理
慢性心不全の患者さんには、食事管理が非常に重要です。食事を適切にコントロールすることで、心臓への負担を軽減し、症状の悪化を防ぐことが可能です。
• 塩分の制限
食事に含まれる塩分量は心不全の管理において大切な要素です。塩分の過剰摂取は体内に水分を溜め込み、血圧の上昇や心臓の負担増加を引き起こします。食事の塩分量は1日6g未満が目安とされています。
減塩の調味料を使用する、新鮮な食材を中心に献立を組むなどの工夫が必要です。外食や加工食品は塩分が多く含まれていることがあるため、注意が必要です。
• 水分の管理
慢性心不全では、体内の余分な水分が症状を悪化させる原因となることがあります。特にむくみがひどい場合は水分制限が必要となります。
水分摂取量は医師の指示に従い、1日の飲水量を決めましょう。アルコールやカフェインを含む飲み物は利尿作用があり、適度に摂取することが推奨されます。
• バランスの取れた栄養
慢性心不全の方にとって、栄養バランスの良い食事は重要です。たんぱく質やビタミン、ミネラルをしっかり摂ることで、体力の維持と心臓の機能をサポートします。特に、カリウムやマグネシウムは心臓のリズムを保つために重要な役割を果たすため、野菜や果物、ナッツ類などから積極的に摂取しましょう。
食事の頻度と量少量の食事を1日数回に分けて摂ることで、心臓に負担をかけずに消化を助けることができます。大食いは避け、消化の良い食事を心がけると良いでしょう。
2. 姿勢と動き
慢性心不全の方にとって、適切な姿勢と無理のない運動は重要です。心臓への負担を減らすために、日常生活の中での工夫が求められます。
• 座位や寝る姿勢
横になって寝ると息苦しく感じることがある(起座呼吸)は、心不全の症状の一つです。これは仰臥位で静脈灌流が増加し、肺に血液がたまりやすくなるためです。
寝る際は頭を高くして上半身を少し起こす姿勢をとると呼吸が楽になります。リクライニングチェアを使って、日中も適度に休息するように心がけましょう。
• 適度な運動
完全に動かないと筋力が低下してしまいます。体調が良いときには軽い運動を取り入れることが推奨されます。
散歩やストレッチなどの無理のない範囲で行える活動を日常的に取り入れることで、筋力の維持と血液循環の改善が期待できます。
• 休息の取り方
動いた後は必ず十分な休息を取ることが大切です。特に息切れや疲労感が強い場合は、無理をせず安静にすることが必要です。
適度な活動と休息のバランスを保つことが心不全管理には不可欠です。
3. 注意すべき症状
慢性心不全の症状は進行することがあり、早期に悪化の兆候に気づくことが重要です。
以下の症状が見られた場合は、すぐに医師に相談しましょう。
• 息切れや呼吸困難
軽い動きでも息切れが生じる場合は、心臓が血液を十分に送り出せていない可能性があります。呼吸が苦しくなる症状は悪化のサインであり、適切な対応が必要です。
• むくみ
足、手、顔にむくみが見られたら、体に余分な水分が溜まっていることを示しています。むくみの程度が変わったり悪化した場合は、体内の水分バランスが崩れている可能性があります。
• 急激な体重増加
数日間で1〜2kg以上の体重増加がある場合は、体内に水分が溜まっていることが考えられます。毎日同じ時間に体重を測定し、変動を記録することで異常を早期に発見できます。
• 倦怠感や疲労
普段よりも極端に疲れやすい、活動が億劫になるといった症状は、心臓が十分に血液を送り出せていないサインである可能性があります。
4. 精神的サポート
慢性心不全の患者は、肉体的な負担だけでなく、精神的な不安やストレスを感じやすいです。家族の支えや安心感が、患者の生活の質を向上させるために非常に重要です。
• 励ましとコミュニケーション
積極的に声をかけ、患者が安心感を持てるようにしましょう。
不安や孤独を感じさせないよう、家族として寄り添う姿勢が大切です。
• ストレス管理
慢性心不全は、長期間の治療と生活制限が必要なため、患者がストレスを感じることが多いです。
リラクゼーション法や趣味の時間を設けることで、精神的な健康をサポートすることができます。
5. まとめ
慢性心不全の介護には、食事や姿勢、日々の症状チェックが重要です。適切なケアと家族のサポートにより、患者がより快適に自宅での生活を続けることができます。
医師の指示を守り、症状の変化に気を配りながら、必要に応じて専門医のアドバイスを仰ぐことが大切です。
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