血液の病気の治療に欠かせない輸血療法ですが、「どのくらいの頻度で輸血するの?」と疑問に感じる方は多いと思います。
答えは、患者さんの状態や疾患によって異なります。
例えば、化学療法の最中や血液の状態が悪い場合は連日輸血が必要になることもあれば、安定している場合は月に1回の輸血で十分なこともあります。
この記事では、赤血球輸血と血小板輸血の開始のタイミング、輸血の効果と持続期間、また輸血の頻度がどのように変わるのかについて、血液専門医がわかりやすく解説します。
1. 輸血が必要になるタイミングは?

輸血が必要になる「トリガー値」とは、血液中の赤血球や血小板の量が一定以下に低下した際の基準値のことです。これらの値が低下すると、血液の酸素を運ぶ能力や出血をとめる機能が十分に働かなくなってしまいます。
具体的には、赤血球が少なくなると体全体に酸素が十分に運ばれなくなり、息切れや疲労感、動悸といった症状が現れることがあります。また、血小板が少なくなると、体の中や外からの出血が止まりにくくなり、内出血や歯茎からの出血、鼻血などの症状が見られることがあります。
これらの症状を防ぎ、患者さんが安全に過ごせるように輸血が行われます。
1. 赤血球輸血

赤血球輸血が必要になる判断は、ヘモグロビン(Hb)値をもとに行います。
一般的には、ヘモグロビン値が6~7g/dL を下回った場合に輸血を検討します。
ただ、患者さんの状態に応じて異なる場合があります。例えば、心臓や肺に持病がある方の場合、酸素供給の不足が心臓や呼吸器に大きな負担をかけるため、ヘモグロビン値が 8~9g/dL の段階で輸血が必要とされることがあります。
また、高齢の方や虚弱な患者さんでは、体が酸素不足に対して適応する能力が低いため、早めの輸血が必要になるかもしれません。
① 血液疾患

骨髄異形成症候群や白血病などの血液疾患では、Hb 6.0~7.0 g/dLを保つように輸血します。
貧血が高度な場合、心臓に負担がかかっていることから一度に大量の輸血を行うと心不全、肺水腫をきたすことがあるので、1日2単位までの輸血量とし、数日かけてゆっくり治療します。
ただし、鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏)、自己免疫性溶血性貧血などの病気は輸血以外の治療法があるため、原則として輸血は行いません。
② 出血

急性出血では、Hb 6.0 g/dL以下は輸血は必須で、Hb 10 g/dL以上の場合、輸血は不要です。
Hbが6.0~10 g/dLの場合は、出血の量や速度、患者の状態や合併症によって輸血を検討します。
ただし、慢性出血(胃や腸、尿、子宮からの長期間の少量出血)による高度の貧血は、原則として輸血は行いません。
日常生活に支障を来す症状(労作時の動悸・息切れ)があり、輸血で改善が見込める場合にのみHb 6.0g/dLを目安に輸血を検討します。
③ 周術期の輸血

手術の際はHb 7.0 ~ 8.0 g/dLを保つように輸血します。
冠動脈疾患などの心疾患あるいは肺機能障害や脳循環障害のある患者さんでは、Hb 10 g/dL程度に維持することが推奨されています。
こうしたトリガー値は、患者さんの全身状態や基礎疾患の有無などを総合的に考慮して決定されます。
2. 血小板輸血

血小板輸血が必要になる基準は、血小板数(PLT)をもとに行います。
一般的には、血小板数が 1〜2万/μL を下回った場合に輸血を検討します。
ただし、患者さんの状態に応じて異なる場合があります。特に、手術や処置を受ける予定がある場合や、すでに出血を伴う状態にある場合には、早期に血小板を補充する必要があります。
- 血小板減少による出血 … 5.0万/μL
- 頭蓋内の出血 … 10万 /μL

- 手術 … 5.0万 /μL
- 頭蓋内手術 … 10万 /μL
- 中心静脈カテーテル留置 … 2.0万 /μL
- 腰椎穿刺 … 5.0万 /μL
- 抜歯 … 1.0万 /μL

- 播種性血管内凝固症 … 5.0万 /μL
- 播種性血管内凝固症(はしゅせいけっかんないぎょうこしょう)とは様々な原因で血が著しく固まりやすくなり、臓器の障害や血栓を溶かす過剰な生理的反応によって出血しやすくなる状態です。

- 大量輸血時 … 1.0〜2.0万 /μL

- 血液疾患 … 1.0〜2.0万 /μL
- 急性前骨髄性白血病 … 2.0〜5.0万 /μL
- 骨髄異形成症候群、再生不良性貧血 … 0.5万 /μL
- 特発性血小板減少性紫斑病は原則として行わない(緊急の出血時や手術前にのみ検討)

- 抗がん剤による血小板減少 … 1.0万 /μL

2. 輸血の効果と持続期間
輸血は、血液成分を補充することで患者さんの症状を改善し、体力を回復させる効果があります。
以下に、体重50kgの患者さんにおける赤血球輸血と血小板輸血の具体的な効果について説明します。
1. 赤血球輸血
① 効果
輸血製剤 1パック(2単位)は280mlです。体重50kgの人に2単位輸血すると、ヘモグロビン値は約 1.5 g/dL上昇します。
例えば、ヘモグロビン値が6 g/dLの患者さんに赤血球を2単位輸血すると、ヘモグロビン値が7.5 g/dL程度に上がることが期待されます。これにより、酸素運搬能力が向上し、息切れや疲労感などの症状が軽減されることが多いです。元気になったと表現させる患者さんもおられます。
患者さんによっては輸血の効果をすぐに実感される方もいらっしゃいます。
② 効果の持続期間
赤血球の寿命はおよそ 120日です。赤血球は骨髄で作られ、体全体に酸素を運ぶという重要な役割を果たしています。
しかし、輸血された赤血球は自己の赤血球よりも短い期間で分解されてしまうことがあります。これは、輸血された赤血球が体内の免疫システムによって異物と認識されることがあるためです。
2. 血小板輸血
① 効果
輸血製剤 1パック(10単位)は200mlです。体重50kgの人に血小板製剤10単位を輸血すると、血小板数は約 4.0万 /μL上昇します。
例えば、血小板数が1万/μLの患者さんに血小板を10単位輸血すると、血小板数が5万/μL程度に上がることが期待されます。これにより、出血のリスクが減少し、出血を防ぐ効果が得られます。赤血球輸血と違い、元気になるなどの効果は得られません。
② 効果の持続期間
血小板の寿命はおよそ 7~10日と非常に短いです。しかし、血小板は体内で非常に短期間しか機能しないため、特に血小板産生能力が低下している患者さんや、血小板が大量に消費されている患者さんでは、頻繁に血小板輸血を行う必要があります。
輸血の効果は患者さんの個々の状態によって異なることがあり、また効果が持続する期間も血液成分の寿命や患者さんの病状によって変わります。そのため、輸血の必要性や量については担当医とよく相談しながら決定することが重要です。
3. 血液疾患の輸血の頻度
血液疾患の輸血の頻度は、患者さんの状態や疾患の種類によって異なります。以下に、代表的な血液疾患ごとの輸血の頻度について説明します。
1. 骨髄異形成症候群(MDS)
MDSの患者さんでは、骨髄で不良品の血液細胞が作られることで、貧血や血小板減少が生じます。
低リスク群
低リスク群の患者さんでは、貧血が軽度であることが多く、輸血をせずに経過観察する方が多いです。中には1〜4週間に1回の頻度で外来で赤血球輸血が必要になることもあります。血小板輸血が必要になることはまれです。
高リスク群
高リスク群の患者さんでは、貧血が重度であることが多く、1〜4週間に1回の頻度で外来で赤血球輸血が必要になることがあります。重度の血小板減少が見られ、出血症状を認める場合には、血小板輸血も必要に応じて行われます。
また、高リスク群ではアザシチジンという抗がん剤の治療により一時的に貧血や血小板減少が悪化し、頻繁に輸血が必要になることがあります。
若い方には根治治療として造血幹細胞移植が行われることがあります。化学療法により長期間免疫が低下するため入院治療になります。幹細胞が生着するまで連日輸血が行われることもあります。
白血病へ移行した場合
骨髄異形成症候群の患者さんの中には、経過中に白血病へ移行する方がいらっしゃいます。白血病に移行すると造血機能が著しく低下するため、さらに頻繁に輸血が必要になる場合があります。
2. 急性骨髄性白血病(AML)
化学療法中
AMLの患者さんでは、骨髄にがん細胞が増殖し正常な血液産生が妨げられ、貧血や血小板減少が生じます。
AMLの治療中は、化学療法の影響で骨髄の機能が抑えられるため、赤血球や血小板の産生が大きく減少します。そのため、赤血球輸血と血小板輸血は頻回に必要になります。
特に、初回の寛解導入療法の際は、白血病による血球減少と化学療法による骨髄抑制が重なるため、頻回の輸血が必要になることが多いです。
また、白血病のタイプによっては根治治療として造血幹細胞移植が行われることがあります。幹細胞が生着するまで連日輸血が必要になることもあります。
寛解維持期
化学療法が終わり寛解に至り外来通院となるころには、骨髄の機能が回復しているため、輸血は不要になることが多いです。
ただし、化学療法の影響で骨髄の機能が十分に回復しない場合、外来で定期的に輸血を続けることもあります。
3. 悪性リンパ腫
化学療法中
悪性リンパ腫の治療中は、化学療法の影響で骨髄の機能が抑えられるため、軽度の赤血球や血小板の減少が見られます。
一般的な化学療法では輸血が必要になることは多くありませんが、悪性リンパ腫が骨髄に浸潤している場合や化学療法を繰り返している場合は、頻繁に輸血が必要になることもあります。
寛解維持期
化学療法が終わり寛解に至り外来通院となるころには、骨髄の機能が回復しているため、輸血が不要になることが多いです。
4. 多発性骨髄腫(MM)
多発性骨髄腫の患者さんでは、骨髄にがん細胞が増殖し正常な血液産生が妨げられ、貧血や血小板減少が生じます。また、化学療法による骨髄抑制で血球減少が強く現れることもあります。
赤血球輸血は1〜4週間に1回程度行われることが多く、血小板輸血も状況に応じて行われます。
5. 再生不良性貧血(AA)
再生不良性貧血では、自己免疫によって血液細胞の赤ちゃんである造血幹細胞が壊されてしまうため、貧血や血小板減少がおこります。
軽症、中等症
血球減少の程度が軽いため、輸血の必要がなく経過観察となることが多いです。中等症の場合は月に1回程度、外来で輸血することがあります。
重症
定期的な赤血球輸血および血小板輸血が必要になることが多く、1〜4週間に1回程度行われます。
また、サイモグロブリンや造血幹細胞移植の最中は頻回の輸血が必要になることがあります。
6. 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
ITPでは、自己免疫の影響で血小板が破壊され、血小板減少がおこります。
血小板輸血は、早急に出血を止めたい場合や、外科の手術前などに行われます。輸血の頻度は患者さんの状態や合併症の有無に応じて変わりますが、基本的には血小板数が一定の水準を下回る場合や出血のリスクが高い場合に行われます。
4. まとめ
輸血が必要になる頻度やタイミングは、患者さんのヘモグロビン値や血小板数によって決まりますが、疾患の種類や治療の状況によっても大きく変わります。
赤血球や血小板の寿命を考慮しながら、適切なタイミングで輸血を行うことが、患者さんの安全を守り、治療を成功させるために重要です。また、輸血にはリスクも伴いますので、必要に応じて医師と十分に相談しながら進めることが大切です。輸血に関して不安や疑問がある場合は、遠慮なく担当の医師にご相談ください。
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