【メトトレキサートの副作用】リウマチ科医が対処法をわかりやすく解説

MTXの副作用は関節以外のいろいろな細胞で葉酸の働きがさまたげられることで起こります。MTXを始めた時や増量した時に起こりやすい副作用には口内炎、吐き気、下痢、腹痛、肝機能障害があります。MTX内服中にいつでも起こりうる副作用は血球減少、感染症、間質性肺炎、リンパ増殖性疾患があります。

MTXの量が増えてきたら、吐き気が出るようになりました。

それはつらいですよね。
吐き気が和らぐ、色々な対処法がありますよ。

メトトレキサート(MTX)の副作用には、口内炎、吐き気、下痢、腹痛、肝機能障害血球減少、感染症、間質性肺炎、リンパ増殖性疾患などがあります。MTXの副作用を予防したり、副作用が出現した際に適切に対応することは、リウマチの治療でとても重要です。

この記事を読めば、MTXの副作用の予防法や治療法が理解できると思います。

この記事のまとめ
  • MTXの副作用は、関節以外の細胞で、葉酸の働きがさまたげられることで起こります。
  • MTXを始めた時もしくは増量した時に起こりやすい副作用には、口内炎、吐き気、下痢、腹痛、肝機能障害があります。
  • MTX内服中にいつでも起こりうる副作用には、血球減少感染症間質性肺炎リンパ増殖性疾患があります。
  • MTXは、副作用をうまく予防し、発症時にすみやかに対応することで、安全に使える薬です。
目次

1. MTXの副作用はなぜおこる?

MTXは、葉酸というビタミンの働きをさまたげることによって、関節の中で炎症を起こしている細胞や物質の働きをおさえるリウマチの薬でしたね。

この葉酸の働きをさまたげる作用は、関節以外のいろいろな細胞にも作用するため、それが副作用となります。

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2. MTXの副作用

MTXの副作用は、大きく2つに分類されます。

MTXの量が増えてくると起こりやすい副作用(量依存性)とMTXの量に関係なく起こりうる副作用(量非依存性)があります。

量依存性の副作用はMTX開始後や増量後に起こりやすく、量非依存性の副作用はMTX内服中にいつでも起こりえます。

MTXの副作用
  • MTX開始後、増量後に起こりやすい副作用
    • 口内炎
    • 吐き気、下痢、腹痛
    • 肝機能の異常
  • MTX内服中にいつでも起こりうる副作用
    • 血球減少(骨髄抑制)
    • 感染症
    • 間質性肺炎
    • リンパ増殖性疾患

3. MTXの副作用の予防と発症時の対応

MTXの副作用の多くは葉酸の働きをさまたげることで起こるので、葉酸を補充することで副作用が軽くなります。葉酸の内服薬にはフォリアミン®︎が使われています。

フォリアミン 葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血の治療薬

3-1. MTX開始後や増量後に起こりやすい副作用

① 口内炎

口の中の粘膜が荒れて、痛みます。口の粘膜の細胞は分裂が盛んなため、MTXの影響を受けやすいのです。

  • 予防
    • MTX内服後にフォリアミン®︎(葉酸)を内服
      • フォリアミン内服のタイミングは、MTX最終内服後24~48時間後
    • バランスの良い食事(特にビタミンB)、良質な睡眠を心がけ、ストレスを避ける
  • 発症時の対応
    • フォリアミン®︎を2錠に増やす、もしくはMTXを減量
    • 口内炎に対してはうがい薬ステロイドの軟膏を塗る

② 吐き気、腹痛、下痢

胃や腸などの粘膜が荒れることにより、吐き気や腹痛、下痢がおこります。

消化管の粘膜の細胞は分裂が盛んなため、MTXの影響を受けやすいためです。

  • 予防
    • MTX内服後にフォリアミン®︎(葉酸)を内服
      • フォリアミン内服のタイミングは、MTX最終内服後24~48時間後
  • 発症時の対応
    • MTXを2〜3回に分けて内服、もしくはフォリアミン®︎を2錠に増やす
    • 吐き気の少ない、MTXの皮下注射(メトジェクト®︎)へ変更
    • 吐き気止めの薬をMTXと一緒に内服
こんな人にはMTXの皮下注射がオススメ!

日本では2022年11月にMTXの皮下注射である、メトジェクト®︎が使用できるようになりました。メトジェクト®︎の特徴は、内服薬に比べて吐き気の副作用が少ない点です。

また、MTXが10mg/週を超えてくると、皮下注射の方がカラダへの吸収が良く効果が高いと報告されています。

薬の値段は月 3000円弱(3割負担)と内服薬に比べて少し高くなりますが、MTXを10mg/週以上内服していて吐き気が辛い人には良い適応です。

③ 肝機能の異常

MTXの量が増えてくると、肝臓に負担がかかることがあります。

肝機能の異常は自覚症状がほとんどないので、定期的な血液検査で確認する必要があります。

  • 予防
    • MTX内服後にフォリアミン®︎(葉酸)を内服
      • フォリアミン内服のタイミングは、MTX最終内服後24~48時間後
  • 発症時の対応
    • フォリアミン®︎を2錠に増やす、もしくはMTXを減量
    • 重い肝障害の場合(目安:AST、ALT>100 IU/L)はMTXを一時的に中止し、フォリアミン®︎を連日投与

3-2. MTX内服中にいつでもおこりうる副作用

① 血球減少(骨髄抑制)

白血球
赤血球
血小板

血球とは血液中にある細胞で、白血球、赤血球、血小板の3種類があります。葉酸は血球の材料でもあるので、MTXで葉酸の働きがさまたげられ、血球減少がおこります。

軽度の血球減少は自覚症状がほとんどないので、定期的な血液検査で確認します。進行すると以下の症状を認める場合があります。

腎機能障害、高齢、脱水、低アルブミン血症などのリスクがあると血球減少がおこりやすいと言われています。

血球減少による症状
  • 白血球減少 … 感染症にかかりやすくなり、発熱などの感染症状
  • 赤血球減少 … 貧血による疲れやすさや息切れ、眠気、頭痛など
  • 血小板減少 … 出血しやすくなることで皮膚の青あざや出血がおきる
  • 予防
    • MTX内服後にフォリアミン®︎(葉酸)を内服
      • フォリアミン内服のタイミングは、MTX最終内服後24~48時間後
    • 以下の状況ではMTXを休薬を検討
      • 食事、飲水の量が減って、脱水状態
        • MTXの血中濃度が高くなり、血球減少が起きやすいため
      • 口内炎がたくさん出来ている
        • MTXの副作用で白血球が減っている可能性が高いため
  • 発症時の対応
    • フォリアミン®︎を2錠に増やす、もしくはMTXを減量
    • 重い血球減少の場合(白血球<1500/μL、Hb<8g/dL、血小板<5万/μL)は、MTXを一時的に中止し、ロイコボリンレスキューを行う
ロイコボリンレスキューとは?

ロイコボリン®︎はフォリアミン®︎と同様の葉酸の薬ですが、活性型葉酸とよばれ即効性があります。

MTXによる重篤な副作用を認めた際は、すぐに効果の出るロイコボリン®︎で葉酸をおぎない、副作用を軽減します。

② 感染症

MTXは免疫抑制剤のため、肺炎や帯状疱疹などの感染症をおこすことがあります。高齢、肺の病気、糖尿病、ステロイド使用、重症感染症の既往などのリスクがあるとおこりやすいと言われています。

また、過去に感染して体の中に潜んでいたB型、C型肝炎ウイルスや結核菌が暴れ出すこともあります。

  • 予防
    • 手洗い、うがい、マスク、歯磨きなどの感染予防
    • ワクチンを接種
      • インフルエンザワクチンやコロナワクチン、65歳以上の方は肺炎球菌ワクチン
    • 肺炎のリスクの高い人には、抗生剤の予防投与
    • 過去にB型、C型肝炎ウイルスや結核菌の感染してる場合は、抗ウイルス薬や抗生剤の予防投与
  • 発症時の対応
    • MTXを一時的に中止して、抗生剤や抗ウイルス薬を投与

③ 間質性肺炎

肺は、肺胞というブドウのふさ状の小さな袋がたくさん集まってできています。

間質性肺炎とは、肺胞の壁に炎症がおこり、壁が厚く硬くなる(線維化)ため、酸素を取り込みにくくなる病気です。
間質性肺炎はリウマチ自体に合併するだけでなく、MTXによる副作用でもおこります。

頻度は1〜7%程度と多くありませんが、重症化することがあり注意が必要です。
肺の病気、高齢、糖尿病、低アルブミン血症などのリスクがあるとおこりやすいと言われています。

正常な肺胞
線維化した肺胞
  • 予防
    • フォリアミン®︎では予防できません。
      • 発熱や乾いた咳、呼吸困難が出現した際は、すぐに病院を受診しましょう
  • 発症時の対応
    • MTXを一時的に中止して、副腎皮質ステロイドを投与

④ リンパ増殖性疾患

リンパ増殖性疾患(LymphoProliferative disease:LPD)とは、白血球のリンパ球がカラダの中で過剰に増えてしまう状態をいいます。良性のリンパ球増殖から血液のがんである悪性リンパ腫まで様々なものを含んでいます。

症状としては、発熱、寝汗、体重減少、首や脇や太ももの付け根のリンパ節の腫れなどがあります。

  • 予防
    • フォリアミン®︎では予防できません。
      • 長引く熱や寝汗、体重減少、リンパ節の腫れなどを認めた際は、先生に相談しましょう
  • 発症時の対応
    • まずはMTXを中止して、経過を見ます。
      • MTX中止でもリンパ節の腫れが良くならない場合は、組織をとって詳しく調べます。悪性リンパ腫の診断となれば、抗がん剤の投与を行います。
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参考文献


最後まで読んでいただきありがとうございました!リウマチや血液の病気などの別の記事も参考にしていただけると幸いです。お疲れ様でした。

つか
医師・医学博士。
専門はリウマチ膠原病内科と血液内科です。
これまで大学病院や訪問診療で、関節リウマチと血液疾患の患者さんの診断・治療・自宅療養のサポートをして参りました。
リウマチと血液疾患で悩む患者さんに、笑顔と安心を届けることが私の使命と考えています。
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